2018年04月15日

スティーヴと竜巻の意外な関係~余剰知の集積

昨日、一昨日とテレビの科学番組を見ました。


NHKの『コズミック フロント☆NEXT「市民科学の最前線 謎の発光現象”スティーヴ”」』と『ブレイブ 勇敢なる者「Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~」』です。

後者の主人公である藤田博士については原稿を書いたこともあり、8割方既知の内容でしたが、知らなかったこともありました。そしてそこには、最新の知見である「Steve(スティーヴ)」と驚くべき共通点があったのです。

まず前者の内容を簡単に紹介しましょう。

1. スティーヴ(1997~2017)
米アルバータ州のオーロラ追っかけ隊(Alberta Aurora Chasers)のひとりが1997年、不思議な光の帯を捉えました。

オーロラとは違う方向に出現し、紫色に輝く長い帯状の発光現象です。

steve2.jpg
彼は仲間たちとともにこれを追い、ある日NASAのHP上で似た写真を見つけました。Proton Arc(陽子オーロラ)だとされていたので、そう呼ぶことにしました。ところがある日、専門家(カルガリー大学のエリック・ドノヴァン教授)に言われます。
「君たちのは未知の現象だ!」「NASAが間違ってる。それをProton Arcとは呼ばないでくれ」

追っかけ隊のひとりが映画『森のリトル・ギャング(Over the Hedge)』を思い出し、「じゃあ、Steve(スティーヴ)と呼ぼう」と提案します。動物たちが正体不明の壁のことを、そう呼んでいたからです。

ドノヴァン教授の学会発表後、TVやSNSで取り上げられ「スティーヴ」は一躍有名になりました。スティーヴの観測記録サイトが整備され、市民科学者(Citizen Scientist)たちのパワーが加速されます。専門家裸足の観測機器と技術と、そして情熱を持った市民科学者たちは、どんどんスティーヴの記録をアップし始めました

専門家が「地磁気観測衛星SWARMのデータと照らし合わせたいから、この時間にここで出たスティーヴの写真はないか?」と問いかければ、数分で答えが写真とともに返ってきます。市民科学者たちのお陰で、スティーヴの正体が解き明かされようとしているのです。

ああ、これこそが「知の余剰」の時代におけるITネットワークの力、「分散知の集積」だなあと感心しました。

そして次に見たのが竜巻研究・マイクロバースト研究の巨人、藤田哲也博士の物語です。

2. 藤田哲也博士(1920~98)
この異端の気象学者(もともと物理学専攻で気象は素人)こそが、竜巻を強度を図る「Fスケール」の生みの親であり、何機もの飛行機を墜落させたマイクロバーストを発見し、その対策を世界に働きかけた救世主なのです。

彼は徹底した観察のヒトでした。思い込みを排し、真実を見極めるために、常にカメラを持ち歩き、竜巻被害の状況をつぶさに記録し続けたそうです。

でも、竜巻は台風と違って非常に局所的かつ短時間の現象なので、そのものを観察することがなかなかできません。できることは被害が出た後の、瓦礫の山を歩くだけ・・・・・・。

藤田博士はある日、ふつうの専門家がやらない手法に打って出ました。地元のラジオやテレビで市民に呼びかけたのです。
「被災地のみなさん、もし竜巻の写真を撮っていたら提供してください」

あっと言う間に200枚が集まり、彼はそれを綿密に計測し、竜巻の形状だけでなくその大きさや進路、風向きなどを、導きだしました。これも市民パワーの結集の成果です。

「分散知の集積」は、科学の世界で昔から行われていたことだったのです。

そういえば、古地震の研究もそう。研究者たちは日本中の「古い日記」を集め、その記述から古代の地震の発生日時や震度、規模(マグニチュード)を推定しています。これは時間を超えた「分散知の集積」と言えるでしょう。日本人にはマメなヒトが多い(毎日日記や手紙を書く)のと、和紙に墨なので保存性が高いことが功を奏しているとか。

さあ、他にはどんな例があるでしょう。これからどんな事例が生まれるでしょう。
知の余剰時代の分散知の集積、つまり「余剰知の集積」が楽しみです。


参考:『竜巻を図る「藤田スケール」』ダイヤモンド・オンライン