2010年01月23日

『ものの大きさ 自然の階層・宇宙の階層』

東京大学出版会のUT Physicsシリーズ。 

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一般のヒトにお薦めする本ではないが、「宇宙は自ずから定まっているのか」を考えたいヒトには、かなりお薦めである。 

ここでは「典型的スケール」という数字を軸に、宇宙の謎を提示していく。 
スケールとは時間や空間、質量等の大きさ(桁数)を指す。 

例えばヒトの典型的サイズは1メートルで、典型的質量は100kg、時間は1秒(典型的サイズ分を動くのに掛かる時間)。 

これが天体になると、 
・恒星 
・銀河 
・銀河団 
・宇宙 
の各々で、これら典型的スケール間の関係が、全く違う。 

銀河内に星は2000億個あるが、星と星の平均距離は星自体のサイズの3億倍。 
一方、銀河団内の銀河同士の平均距離は銀河自体のサイズの20倍しかない。 

つまりヒトが星だとすると、お隣のヒトまで3億メートル(30万㎞)だが、ヒトが銀河なら、お隣の銀河まで20メートルしかないということだ。 

だから星と星の衝突は滅多に起こらない(銀河中心では別)が、銀河は衝突する。 
(われらが銀河系も、あと30億年くらいでお隣の銀河、アンドロメダ銀河とぶつかる予定) 

こういったことが第3章までに書かれている。 
でも、この本の一番面白いのは第4章 「微視的世界と巨視的世界をつなぐ」だ。 

ここでは2つのテーマが議論される。 
・全ては物理法則と初期条件によって定まるが、そのどちらが効くか 
・微視的な物理法則だけから、巨視的なスケールが定まるか 

前者では、対象が宇宙級だと初期条件が効く、ということがわかる。 
だから、今の宇宙の大構造を調べれば、その初期条件、つまり宇宙創世時の記憶が読み取れると言うことだ。 

後者では、基本的な物理方程式から、あらゆる天体のスケールが導き出されていく。 
ガス惑星、岩石惑星、太陽、白色矮星、中性子星(花粉一個の重さが1トン)、そしてブラックホールに銀河、銀河団。 

「微視的世界と巨視的世界はつながっている」、そして「誕生直後の微視的な宇宙の状態を知りたければ、宇宙の最大級の構造を調べよ」ということなのだ。 

そしてここ20年、宇宙最大級の構造がさまざまに調べられた。そこから分かった驚愕の事実とは! 


しかし、この本の最大の価値はその答ではない。新たな問いだ。 

この本は最後に、解くべき謎、答えるべき問いを提示している。 
・宇宙や星、太陽系の年齢は、なぜ大体同じか 
・今の宇宙の密度が、その典型的密度スケールより120桁も低いのはなぜか 

自然というものが如何に当たり前でないか、を示していることに価値があるのだ。 


宇宙は、絶妙なバランスと、奇妙なネジレと、桁違いのズレで出来ている。 
それらは偶然か、それとも・・・