ダイヤモンドHBR 2014年4月号『ビジネスモデル全史』
『ビジネスモデル全史』というこの論文名には、2つの意味が隠れています。
ひとつ目は「ビジネスモデル」の「ビジネス用語・経営戦略用語」としての歴史です。
このちょっと野暮(やぼ)でものすごく曖昧(あいまい)なビジネス用語は、これまで数奇(すうき)な運命を辿(たど)ってきました。無視されたり、ほめられたり、貶(けな)されたり、そして、尊敬されたり。3期に分けられるそのビジネス用語としての歴史を、まずはざっと見てみましょう。
1期は、はるか昔から1990年頃までです。
ビジネスモデルというコンセプトや言葉は存在していたものの、大して見向きもされず、ときどき使われるくらいの言葉でした。本当はそれによって多くのイノベーション(革新)が生まれていたというのに。
しかし2期、1991年頃から2000年まででいきなりの絶頂を迎えます。「ネットビジネス の説明」用として。
1990年代中盤、インターネットの急激な普及によってネットビジネスが勃興(ぼっこう)します。1994年にはブラウザーのモザイク が発明・公開され、アマゾン、ヤフーが創業します。98年にはそういった仕組み自体が特許化(Pricelineの逆オークション方式)もされ、あらゆる起業家や投資家、経営者やメディアがその言葉を使い、学者たちも追随しました。
だからこそ2001年のドットコム・バブル崩壊で、「ビジネスモデル」という言葉は陳腐化し、消えて無くなるはずでした。他の経営流行語 のように。
でも、「ビジネスモデル」は見事に復活を遂げました。2つの新しい使い途が分かったからです。
1つは「競争優位の持続性」への解答として、もう1つは「イノベーションの起こし方」への解答として。いずれも21世紀の経営戦略論が抱える最大テーマであり、「ビジネスモデル」は2002年以降、3期として2度目の絶頂を迎えています。
『ビジネスモデル全史』という名前のもうひとつの意味は、(私の定義でいうところの)ビジネスモデル革新(イノベーション)の歴史です。
歴史上、どんな大きなビジネスモデルが存在し、そしてそれはどこでどうやって生まれてきたのかを、概観したいと思っています。
といっても、15000文字のなかで(もともとは9000文字以内のハズだった(笑))それをカバーするのは不可能なので、「為替・決済システム」の歴史を追うことで、それに替えました。
・メディチ家による国際為替決済システムとバチカン公金の取扱い
・トーマス・クックとアメックスのトラベラーズ・チェックによる個人国際為替
・バンカメのVISAカードがつくった社会インフラ
・インターネットと暗号とeBay。ペイパルのマイクロペイメントが見知らぬ者同士をつなげた
・スクエア革命とはリアル決済の変革。売り手を拡大し、買い手の経験を変える
これらは一企業の戦略に留まらない、大きなビジネスモデルの革新(イノベーション)たちなのです。
日経朝刊2014.03.10
ぜひ、お読みください。