第14号 MBAに学ぶ(前編)
INSEAD(いんしあっど)
1991年の夏から92年の年末までの1年半、フランスで暮らした。
パリ郊外、南へ約60kmのFontainebleau(フォンテーヌブロー)という小さな町にあるMBAスクールに留学したためだ。
フォンテーヌブローは、広大な国有林「フォンテーヌブローの森」(250km2!)に囲まれた自然豊かな町だが、なんと言っても有名なのは世界遺産「フォンテーヌブロー城」だ。もともと狩猟場だったフォンテーヌブローに16世紀、宮殿が建てられ、以降フランス歴代の国王たちが増改築を続けた。
最後の主がナポレオンであったことから、町には今も彼の象徴Egle(イーグル、鷲)にあふれている。お金持ちの別荘地であると共に、フランス全土でも五指に入る観光地でもある。
その北西の外れに、INSEADはある。
1年制のMBAコースはその授業やテストの過密ぶりにおいて列ぶものはなく、卒業条件としての第三外国語はアジア系学生を苦しめる。
しかしながら、国際人材の輩出というそのビジョンは出色であり、90ヶ国から学生を集め、仲間とし、また世界中にばらまき、グローバルネットワークを創り上げている。
INSEADという場で、そしてフォンテーヌブローを中心とした生活(と旅行)で、私が学んだもの、得たものは非常に大きい。
おそらく、その後20年間をその思い出で満たせる程の重みを持ったものであった。
その中でもほんの幾つかを、紹介しよう。前編では、INSEADとそこでの友人から学んだこと、後編では延べ8ヶ国に及んだ欧州旅行の数々から学んだことを書いてみよう。
MBAコースって・・・
MBAの講義の内容自体で目新しいものは殆ど無かった。
そりゃそうだ。私は既に経営コンサルタントとして4年を過ごしていた。お客様にMBAが一杯居るのに、その内容を知らないなんてあり得ない。自学自習、同僚との勉強会等々で経営学の基本的な内容はだいたい身につけていた。アカウンティング、マーケティング、組織論、企業戦略論等々。
ただ、INSEADならではの内容が随所に見られて非常に為になった。
例えば会計1つとっても大陸の会計基準をベースに、アメリカがどう違うか(実は株主向けは結構いい加減)とか、イギリスがどうヘンかとか、更に日本はもっと不思議、とかを教えてくれる。
また、ヨーロッパの企業は日本と同じく歴史があり、労組が強く、組織が硬直していたりする。それをどう変革していくのか、使われる様々なケースはかなり役立つモノだった。
それでも、知識面だけで言えばMBAコースに2年1000万円以上をかけて行く価値は、おそらく、ない。
知識だけなら今の時代、本やネットを読めば済む。
もちろん「激務ご苦労様。2年間休養と英語研修に行ってらっしゃい」という(今時少ないが)大企業派遣であれば、何であろうと文句はない。
一体、MBAの価値とは何だろうか。
今振り返ってみれば私にとってそれは、人生の幅の拡大だった。