第13号 失敗に学ぶ(後編)
自分を科学する
プロジェクトが終わった後、「呆けたな」の他に、もう一つ上司に言われたのは「今回は三谷の強みが見えなかった(活かされなかった)な」
そのとき初めて気がついた。
「へー、私には強みがあるんだ・・・」
それまでは自然に出来ていたから気がつかなかった。自分が何が上手で何が下手かなんて意識しなかった。他人と何が違うかすら知らなかった。
もっと早く言ってくれよと思いながら、恥ずかしさを殺して、上司に聞き返す。
「私の強みってなんなんでしょう?」
上司曰く「割と早めに面白いことを見つけてくる」「そしたらそこに集中してすごく深掘りをする」云々。
言われてみれば思い当たることは色々あった。そうだったんだ。自分のやり方ってそんなんだったんだ・・・・うーん・・・
そして、その日から「自分を科学する」ことが始まる。
米空軍による有名な研究がある。空軍パイロットを対象にした「スキルレベル」とその上達過程を明らかにしたものだ。
それによれば、パイロットとしての最高レベルである「エキスパート」レベルの人たちは、実は「考えずに行動」している。
なぜそういう回避行動をとったのかと問えば、事後、完全に説明が出来る。そう言う意味で、ただの「天才的センス」ではない。しかし、実際その時には、いちいち複雑な思考や判断を経ることなく、無意識に最適で独創的な行動を起こしている。
一方、「マスター」レベルでは、最適な行動をとれるけれど、一瞬の思考や判断がそこにはある。教官(マスター)としてはこれで十二分だが、エキスパートには及ばない。
さて、人と自分は何が違い、自分は何をウリにしていけるのだろうか。自分はどんなスキルがあって、そのレベルは如何ほどのものなのだろう。マスターかそれともエキスパートか。また、どうやったらそれを伸ばせるのだろうか。
自分が出して評価されたアウトプットは、どこがよかったのか。その良かったポイントを敢えてコンセプト化するとどうなるのか。
例えば、クライアント経営陣に、その会社の物事の決め方が、競合に比べて遅すぎると、言いたかったとしよう。そこでただ単純に「意思決定が遅い」などと表現せず、
「速いけど遅い」
といった表現にしてみる。
「(自分たちとしては、親会社より)速い(と思っている)けど(意思決定は、実際の競合である他の中小企業より)遅い」という意味だ。
それでやってみると思いのほか、うける。
でも、うけた、で終わらず、この「うけ」を科学する。
このうけた表現には「短さ」「類語(反語)」「韻」そして「矛盾」といった要素がある。「表現は単純」なのに「意味が分からない」という対比の面白さもあるだろう。
更に言われた経営者の視点から見れば「覚えやすい」の他に「自分が使ったときに相手に覚えてもらいやすい」「厳しいことを間接的に言える」などなどの価値がある。
これだけ普遍化すれば、次のうけ、に繋がるだろう(たぶん)。
OJT(On the Job Training)という名の経験主義、放任主義によって自身の身に付いた「暗黙知」を、意識して「形式知」に変えていこう。もちろん得たものの全てを形式化できるわけではない。それでもその努力はきっと報われるだろう。
自分を科学することで、結果が出ないときに修正が効くようになる。これは「職業(プロ)として」何かを行う上では必須の力だ。「なぜだか調子が出ません」では済まされない世界での、よるべとなるだろう。
また、自分を科学し、言葉と方程式に還元することで、自分のスキルを人に、もっと効率的に伝えられるようになる。これも指導的立場を取る上ではとても重要な力だ。