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第5号 マスター・オブ・ライフへの道(前編) 

基幹産業&普遍フォーマットとしてのマンガ

メディア・コンテンツ分野は世界全体で年間100兆円の市場である。

その内マンガ(含む キャラクター)が10兆円、アニメが10兆円、ゲームが14兆円程度となっている。その総額34兆円は広告産業規模に匹敵する。


日本では、メディア・コンテンツ全体で12兆円、内マンガ52百億円、アニメ25百億円、ゲーム42百億円

マンガ・アニメ・ゲームでの輸出額はなんと30百億円超に達する。世界でテレビ放映されるアニメ番組のタイトルのうち6割が日本製、ヨーロッパでは8割以上が日本製と言われている。マンガ(キャラクター)市場でも、日本製が過半を占めている。


長々と書いたが、要はマンガ・アニメ・ゲームが世界に冠たる日本の基幹産業の一つだと言うことだ。

その中でも、マンガは特異な地位を占める。

国民一人当たり年間19冊のマンガを買っている計算になるのだが、約4000人のプロ漫画家たちが年収1億円を目指して日夜競っているのだ(因みに『バガボンド』では単行本が累計5000万部以上売れている。印税10%として約30億円が作者の収入)。

ゲームの世界ではファミコンに始まって、スーパーファミコン、プレイステーション、プレイステーション2、更にはプレイステーション3やWiiへと土台そのものが進化を続けている。

表現形態がどんどん変わり、その中で制作組織も制作費も拡大の一途だ。


でもマンガは、変わらない。

ここ40年以上、縦紙にコマ割り、手書きが基本のままだ。でも飽きられることなく、次々と新しいコンテンツが描かれ、出版されていく。

そこには人の心に触れる本質が数多く眠っているに違いない。

コンウォールの海の色

1992年の夏、イギリス西南の果て、コンウォール(Cornwall)地方を旅した。ひとえにその海の色を見んがためである。

ヒースに覆われた崖と小さな砂浜が続く独特の海岸線。雲の隙間から刺す陽に輝く深い青(せい)碧(へき)の海。永き憧れの地であった。

この場所を私は、浦沢直樹氏の『MASTERキートン』で知った。

保険会社の調査員で考古学者、日英混血の主人公、平賀キートンの幼少時代の地がコンウォールだ。


物語そのものは毎回、事件と考古学が絡んだ面白いものだ。

彼は元SAS(英国陸軍 特殊空挺部隊:Special Air Service)隊員であっただけでなく、そこでサバイバル術の教官を勤めていた。付いたあだ名がマスター(達人)キートン。キートンは卓越した観察眼と危機克服能力をもって事件を解決し、人の心を開いてゆく。

彼の幼少時の回想シーンの中で、顔見知りのバスの老運転手がキートンに語りかける。

「キートン、お前はきっと人生の達人(マスター・オブ・ライフ)になれる。いい目をもっているからな」


ここで言う「いい目」とは何だろう。

同じ風景を見ても、見えるものは人によって違う。同じ文章を読んでも気が付くことは違う。同じ経験をしても学ぶものは違う。

物事の本質を見いだす力、美しさや優しさを感じる力、そういったものがきっと「いい目」なのだろうと思う。


浦沢直樹氏の最新作『PLUTO』は、故 手塚治虫氏の「鉄腕アトム 地上最大のロボット」のリメイク拡張版である。

時は近未来。ロボットの人権(?)が確立され、人とロボットが軋(きし)みながらも対等に生きる社会が舞台だ。そこで世界最強のロボット7体が次々に破壊されていく。そのロボット達の生と死が、ロボット達の視点から語られる。


夫を破壊された旧型ロボットの妻に、ロボット刑事が問う。

「記憶を・・・・データの一部を消去しましょうか?」

彼女は首を振る。「あの人の思い出・・・・消さないで・・・・」

機械知性とは何か、心とは何かの本質に迫るストーリー、筆致は流石である。映画 『ブレードランナー』(原作はフィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)とも軌(き)を一(いつ)にする。

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