第60号 新しいハカり方への挑戦2:MEMS
ジャイロスコープも内蔵したWiiモーションプラス
もう一つ、常識を変えたMEMSがある。リモコンへのアタッチメントとして開発されたWiiモーションプラスに組み込まれた「ジャイロセンサー」だ。
これを取り入れたことで「回転」がハカれるようになった。
加速度センサーは直線的動きをハカるには強いが、ひねり(回転)がわからない。だからゲームで言えば、ゴルフクラブのフェースの開き具合がわからないし、ラケットでスピンがかけられない。
ジャイロセンサーはもともと、ロケットや航空機の姿勢制御用に開発されたもの。超高速の「地球ゴマ」が内蔵された、重さ数十㎏の代物だった。
ところがMEMSで作られるようになり、さらにデジタルカメラの手ぶれ防止回路に使われて、爆発的に小型化と低価格化が進んだ。半導体技術で作られているので、量が出れば価格は劇的に下がる。
でも、カメラ用のままではゲームには使えない。結局「ピンポン」での利用などを考えて、性能を5倍に上げた。これで1秒間に4回半、腕を回しても大丈夫だ。
その他幾多の困難※3を乗り越えて、Wiiモーションプラスはリリースされ、既に1千万台近くが売れたという。
これにより、多くのソフト会社に「奥の深いスポーツゲーム」「より直観的な操作」の可能性を提供した。「Wiiスポーツリゾート」のみならず、より革新的なゲームの登場を待とう。
タニタによる歩数計の進化
歩数計※4の市場規模は、年間400万台程度で成熟していた。
そこに新しいハカり方を導入し、市場を年間600万台程度にまで押し広げたのが、体重計や体組成計で有名なタニタ。
ここでも、MEMSの「3D加速度センサー」がその立役者だ。
もともと歩数計は、ふりこ式のセンサーで歩数を検知していた。カチカチとひたすら歩数を刻む。それがデジタル化され、加速度センサーが使われるようになった。
でもまだ2D加速度センサーだったので、どんな方向の動きもハカれるわけではない。だからやっぱり腰にちゃんと付けないと正確じゃない。
女性たちにとっては、それが不便であり、ファッショナブルではなかった。
どの方向でもハカれる3D加速度センサーが、歩数計に組み込まれるようになって、初めて「バッグの底に入れていても大丈夫」になった。06年のことだ。
もちろん消費カロリー計算だってしてくれる。1日のカロリー消費具合をグラフにして出す工夫もしたことで、タニタの歩数計は多くの女性ユーザーを獲得した。
09年には新しい「目盛り」も導入した。メッツとエクササイズというものだ。メッツは運動の強さを表し、エクササイズ※5はそれと時間をかけたもの。厚労省が06年から「週に23エクササイズの運動を」と推進しているものだ。
安静時の運動強度は1メッツ。普通に歩いて3メッツ、ジョギングだと6メッツだ。
だから通勤等で毎日1時間歩いているなら週に3×1×7=21エクササイズなので、プラス2エクササイズで良い。週に20分のジョギングを加えればOKとなる。
最新の歩数計は、歩数だけでなくこういった運動強度をハカり、かつ、健康のための運動量の目安まで示してくれる。
これも、新しいハカり方(3D加速度センサー付き歩数計)、新しい目盛り(メッツ等)による健康器具の革新なのだ。
次回も「新しいハカり方によるビジネス革新」を。但し、技術によるものでなく、ヒトによるもの。
ハカったのは、個人の信用。お楽しみに。
※3 任天堂のWii専用HPに、社長が訊く『Wiiモーションプラス』があり、詳しい
※4 「万歩計」は山佐時計計器の登録商標。一般名称は歩数計
※5 エネルギー消費量(kcal)=1.05×エクササイズ(メッツ・時)×体重(kg) で計算できる。
初出:CAREERINQ. 2010/01/15