第59号 新しいハカり方への挑戦1:ハッブル宇宙望遠鏡
本当の成果
ハッブル宇宙望遠鏡の貢献は、前記のものに留まらない。
現代天文学における最大のナゾは「ダークマター、ダークエネルギー」と「宇宙の加速的膨張」だ。
宇宙には見知らぬ物質、見知らぬエネルギーが充ち満ちているらしい。また、宇宙はその誕生の時と同じく、今ふたたび加速度的に膨張しているらしい。
ハッブル自身が昔、見いだしたのは「等しく膨張する宇宙」だった。遠くの星、遠くの銀河ほど速く遠ざかっている!
しかし今、彼の名を持つHSTは「加速的に膨張する宇宙」を、われわれに見せている。この再加速がなぜ起こっているのか、どこまで続くのか、最後にはどうなるのか、まだ全く、分かっていない。
この予期しなかった事実が、われわれを新たな地平へと導くだろう。いや、押しやると言っても良い。
新しいハカり方の真の価値がここにある。
想像すらしなかった発見こそが、われわれのこりかたまった常識を打ち破り、科学やビジネスを、ジャンプさせる。
Discover unimagined objects and answer unasked questions
HST打ち上げ3ヶ月後の1990年7月、高名な理論宇宙物理学者であったジョーン・バコール博士は米国下院で証言を行った。
HSTは直ちに修理されねばならない、そのための予算が必要だと。
その証言の中で彼は、修理が成功すればこれこれの研究成果が上がると、4つを挙げている。
「宇宙の大きさがわかる」
「クエーサー※6の謎が解ける」
「最遠の天体が見つかる」
「太陽系外の惑星が見える」
いずれも当時の最先端問題だ。それらに答を出すために、確かにHSTは作られた。
しかし、彼は証言の最後に「個人的見解」としてこう言っている。
「でも、HSTの発見がそれらに留まったなら、私は失望するでしょう」
「HSTの本当の目的は、想像もしていなかったことを見つけ、未だ問われてもいないことに答えることなのです」
「それらこそが、最高の発見と言うべきでしょう」
そう、ハカれなかったものをハカれるようになることで、大きな革新が生まれうる。次回はそれを、ビジネスの世界で見てみよう。
※6 Quasar 異常に活動的で大きなエネルギーを放つ天体。太陽の10兆倍程度
初出:CAREERINQ. 2009/12/15