第57号 リフォームで育む「考える手足」
定額制ばやりが示すもの
少しの手間を掛けて「材工分離」、つまり施主支給品を増やせば、コストは確実に下がる。少しの手間を掛けて、間取りの微修正を試みれば、マンションでも十分「楽しいイエ」が実現できる。
なのに「コミコミで変更幅固定」の定額制は、それらの工夫を許さない。
いや多分、だからこそヒトはそれを好むのだろう。ゼロから考えることをヒト、特に日本人はイヤがる。
大体の枠があって、その中の選択肢3つ、くらいで十分だ。その方が安いですよとまで言われたら否も応もない。
ここには日本人の「型に嵌まるのが好き」という性質が見て取れる。
血液型に星座、盛り合わせにセットメニュー、パケ放題にホワイト学割。もちろん最近は、ちょっと幅を楽しむ余裕が出てきたから、選択肢を求めるくらいには、なっている。
パッケージ旅行より組合せ型旅行だし、セットメニューより選択肢付きプレフィックスメニューが流行だ。
心や時間の余裕と、情報処理能力、そして決断力がなくては、高い自由度を「楽しむ」ことは出来ない。
いや逆だ。
リフォームのような自由度の高い、なんでもありで工夫次第でどうにでもなるような機会を、自己改造のために利用しないでどうする!
『デザイン思考』の練習の場として
しかも身銭を切るからこそ、リフォームは真剣な練習の場となる。
いろいろ調べ、考え、もしかしたら模型さえ作り、検討するだろう。自分だけではもちろん決められることではないから、家族の意見もちゃんとヒアリングしなくてはいけないし、それらのニーズと様々な制約を勘案した上で、様々な解決オプションが考え得る。
最終的には予算の中での苦渋のトレードオフを経験もするだろう。そして、完成したときの感動。
『デザイン思考 Design Thinking』とは、世界屈指のデザイン・ファームであるIDEO社が提唱するイノベーション手法だ。
さまざまな性格や能力を持った者たちを組合せてチームとし、試行錯誤的アプローチによって新しい問題発見・解決方法を生み出していく。
机上の計画、事前のプランに縛られることなく、どんどん試作品を作っては使い、壊し、新しい知見を得て改良していく。
ユーザーにただニーズや不満を尋ねるのではなく、じっくりユーザーを観察したり、みずから利用者となって体感したりすることによって、隠れた真のニーズを発見しようとする。
こういった「行動する脳」「考える手足」「突破する気合い」が、今の日本人には足りない。座って悩んでいては、決してイノベーションは生まれないのに。
いわんや「定額制」のゆりかごに安住する姿勢の中に、未来の日本はない。
年間7.6兆円もの自腹の研修費を、ムダにしてどうする。
参考
- 『発想する会社!――世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』『イノベーションの達人!』 トム・ケリー、ジョナサン・リットマン著、早川書房。
初出:CAREERINQ. 2009/10/15