第57号 リフォームで育む「考える手足」
リフォーム市場7.6兆円
富士経済研究所の調査によれば、08年度のリフォーム市場は、全体で約7.6兆円、前年度比マイナス3.8%減だったという。
ただ不況下では新築よりも、リフォームによる再生、高付加価値化、延命に人気が集まる。新築需要が96年以降大きく落ち込む中で、リフォーム市場の比率は確実に上昇を続けている。
なかでもマンション等の集合住宅は、戸建てに比べて躯体寿命が長く、住宅ストックに比例してリフォーム市場が拡大する。実際08年度では約2.4兆円、前年度比プラス2.2%の伸びを示した。
一口にリフォームといっても、一件10万円程度の小規模のモノから、大規模な間取り変更を行なう1000万円級のモノまで様々だ。
最近の「変化」を、マーケティングの4P※1の視点で見てみよう。
【Place】プレーヤーは、従来の工務店や住宅メーカーに加え、家電量販店(特にエディオンなど)やホームセンターなど小売業からの参入と成功が目立つ。
【Product】最近注目のリフォーム商品は「オール電化」と「太陽光発電」。これらが家電量販店によるリフォーム事業伸張(前年度比50%増)を後押ししてきた。
【Price】そして、もう一つの変革が料金の「定額制」だ。
例えば、マンションの“全面改装”が平米あたり8.5万円。仕様や設置設備はだいたい決まっているが、間取り変更も給排水管の更新も内装替えもコミコミの値段だ。60平米のマンションなら510万円、80平米なら680万円、となる。
地場工務店が昔からやっていた定額制サービスが、ここ数年大手にまで波及し「新築そっくりさん」「まるごとホーミング」「暮らしアップ」「ミチガエル」「まるで新築くん」といったブランドで売られている。
設置設備や仕様を絞り込むことで、大幅にコストダウンし、その分を顧客にも還元する、という面から見れば悪いことではない。
しかしこれらが「分かりづらかった価格や見積を明確にした!」と受けている、というのは全く解せない話ではある。
コミコミで幾ら、のどこが「明確」なのだろうか。確かに、単純で分かり易い、だろうけれど。
しかも契約前から施主とリフォーム会社は、ゼロサムゲームを戦うことになる。動く金額は同じで品質もほぼ一定。とすれば施主は希望(ワガママ)を通せば勝ち、リフォーム会社はそれを封じ込めれば勝ち、という構図となる。
定額制とは、何なのか
もともと 住宅工事(新築もリフォームも)費用の「曖昧さ」の根源は、そのコミコミ体質にある。
工程で言えば、前半の設計と後半の施工がゼネコンと同じでコミ。施工時の費用項目で言えば、材料と工賃がコミ。「一式幾ら」というやつだ。
だから、安くしましたと言われても、何がどれくらい掛かっているのか、比較のしようがない。
しかも、例え詳しい見積をもらったとしても、A社は施工タイプ別(床張り替え、クロス張り替え、水回り一式、建具一式、家具一式、等)、B社は箇所別(リビング一式、キッチン一式、風呂一式、等)だったりする。
これでは2社間を比較することが難しく、相見積りをとっても結局「総額」でしか決められない。どうせちゃんと比べられないのなら、細かくなっていても意味がない。
リフォーム定額制はある意味、施主側と企業側の開き直りの産物だ。
どうせ内容は詳しく分からないから、全部コミコミの一式でいいや、という面倒くさがり屋の施主。
どうせリフォーム施工の手間は大して変わらないし、施主もわかりやすさとお得感で買ってくれるだろうと見切ったリフォーム会社。最近流行の「中身が見える福袋」みたいなものだ。
施主側の求める価値が、そのコミコミの中で十分実現されるのであれば、外野が文句をいう筋合いのモノでもない。
それでも、勿体ないな、と思う。お金的にも、価値的にも、そして自己改造的にも。
※1 Product、Price、Place、Promotion