第43号 Teach For America
Win-Win-Win-Win-Win・・・
目的はズバリ、人材採用、リクルーティングだ。
同じ層の学生たちをTFAと取り合っていることに気が付いた(そしてTFAに競り負けていた)数社は既に、TFAと「戦略的提携 Strategic Partnerships」を結んでいる。
共同で就職セミナーを開き、TFA人気を使って優秀層を集め、TFA参加者には2年間の就職猶予や引越ボーナスを与えたりしている。
各企業からのTFA参加者への評価は、高い。
「コミュニティのために尽くそうというコミットが高い人間を是非採用したい」
「TFA参加者の、教育現場で鍛えられたコミュニケーションスキルやリーダーシップは素晴らしい」
「当社の幹部の幾人かも教育界出身である。TFA出身者の当社での活躍を望む」
今やTFAでの2年間は、参加する若者たちにとって、ビジネスキャリアの遅延ではなく、ビジネス界での自分の評価を高める期間とすらなっている。
TFA、この「場」で実現されている「Win」は枚挙に限りがない。
- 子どもたち:学力や学習意欲が向上し、人生機会の増大に繋がる
- 公立学校:優秀な教員を無償で確保できる。学校全体の雰囲気が良くなる
- 地方自治体:教育予算の増加無しに公立学校改革が図れる
- 学生:自己の社会貢献意欲が満たされ、各種スキルが向上し、次のキャリア形成にも有利になる
- 寄付者・提携企業:イメージ向上に繋がり、採用活動上も稀少な人材を確保できる
TFAは更には、TFA出身者たちを、長期的にまた教育界に環流させ、学校幹部・リーダーとして活躍して貰うことを目論んでさえ居る。
それは、1989年に始まった
Koppさんが、卒論を仕上げ、大統領に提案を却下され、採用試験も落ちて、TFAを立ち上げたのは1989年のこと。
それから既に20年が経つ。
1万7千人以上の若者がTFAを卒業し、延べ250万人以上の子どもたちがTFAの恩恵を受けた。
この間、彼女自身、結婚し3人の男の子を育て、各種の賞(2004 John F. Kennedy New Frontier Award等)を受賞した。
そう、TFAがスタートしたのは20年も前なのだ。それだけを見ても、日本は20年以上、遅れている。
この特定の活動のことではない。
こういった社会を変革するアイデアを持ち、立ち上げようとする人材が足りない。そしてそれを支援し、立ち上げさせようというサポーターが、圧倒的に足りない。
そして今、日本で
TFAのアイデアだけをひっさげたKoppさんを、最初の最初に助けたのは、たった3人の企業エグゼクティブだった。
一人が$2.6万(約300万円)を出してくれ、一人がオフィスの一角を、もう一人が償却済みのレンタカーを6台提供してくれた。そこから全てが始まった。
今の日本にとっても喫緊の課題である社会イノベーション。これをスタートさせる孵化器(インキュベーション・センター)がようやくあちことに出来つつある。
しかし、器だけあっても仕方がない。大学や官庁の自己満足に終わるだけだ。
そこに「卵」とお金がなくては何も生まれては来ない。
個人として何が出来るだろうか。日本という国を未来あるモノにするために。
企業は何をすべきだろうか。日本という市場をもっと活力ある場にするために。そして、その人材とお金を最大限に活かすために。
初出:CAREERINQ. 2008/08/08