第41号 トヨタvs.パワーポイント
『一枚一分プレゼンテーション』
間違えてはいけない。パワーポイントは、資料に色を付けるためのツールではない。
ましてや配布資料を作るためのものでも、起承転結を曖昧にするためのものでも。
もともと、なんでプレゼンテーションが「スライド方式」かと言えば、それが「集中」に向いているからだ。
だから、一枚をだらだら説明してはいけない。それを少しでも見やすくする、集中しやすくする工夫がアニメーションだ。
スライド方式やアニメーションを活用することで「集中」は得られる、のだ。
「スライドによる集中」を追究したのがキリングループの商品開発部門で活躍する佐藤章氏。NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でもお馴染みの彼だが、プレゼンテーション資料は、なんと一枚一分が目安。
商品戦略会議での持ち時間が20分あれば、まず20個の四角を書いて、そこに言いたいことを書き込んでいく。20枚なら、構造はこんな感じ:
起:「今はどんな時代なのか」
承:「だからこの企画」
転:「セールスポイント」
結:「会社のメリット」
例えば、承「だからこの企画」のところには、「ターゲット」「開発要件」「テーマ」「商品コンセプト」「ユーザーベネフィット」が列び、転「セールスポイント」には、「マーケティング上の意義」から始まる4P施策が列んでいく。
これら一つ一つが、一枚、一分。
このやり方は、彼の若い頃の苦い経験から来ている。面白い内容を話しているつもりなのに、相手が寝ちゃう、よそ見をしている、別の仕事をし始めた・・・
なんとか良いプレゼンテーションをしよう、人の心に響く示し方をしようという努力の中から、彼は「人の集中力がもつのは最大一分」と見定めたのだ。
もちろん、集中力の限界が一分だとしても、スライドを一分ごとに変えなくてはいけない法はない。それは人それぞれ色々な工夫があろう。
ただ、普通は一枚2~3分は説明に掛かるものを、一分でやる佐藤氏の割り切りと、それに伴うスライドの単純化は見事だ。簡単な棒グラフ、明確な数字、絞られたキーワード、それらのみによるスライド群こそがこの『一枚一分プレゼンテーション』を可能にする。
トヨタに負けるな
さて、読者諸氏はこのトヨタからの風を、どう受け止めるだろうか。
それを推進力にして、社内での資料簡素化運動を起こすのもいいだろう。逆に、「トヨタと同じことをしていてはトヨタに勝てない!」と逆張りで行くもいいだろう。
いずれにしても、簡単なことではない。
これは、紙やインクの節約議論ではない。上司(社長も)を含めた、社内での意思決定方法議論なのだから。
この風を、受け流すことなく、正面から当たってほしい。
初出:CAREERINQ. 2008/05/26