第40号 エレベーターの罠
Nicholas Whiteのハマった罠
彼の名前はニコラス・ホワイト(Nicholas White)。
救助直後、置きっぱなしだったジャケットを取りに43階の職場に戻った彼を待っていたのは、同僚からの長い長い抗議文。
一緒に深夜残業していたその同僚は、彼の突然の「失踪」に怒り心頭。抗議文を彼のPC画面に貼り付けていった。周りのみんなに見えるように。
なんと理不尽な。でも同僚を責めても仕方がない。
とぼとぼ家に帰って、一息ついて、彼が決めたこと。それは、エレベーター管理会社とビル管理会社への訴訟だ。
そのまま職場には復帰せず、2ヶ月の海外旅行に出て精神を癒し、会社を辞め、そして訴額25百万ドルの訴訟戦に打って出た。
4年の法廷闘争の後、和解により(おそらく)彼は1億円弱の和解金を手にした。
しかし結局、事故原因は分からず、彼は出版業界での職を失ったままだ。得たお金も使い果たし、昔の同僚たちとの繋がりも絶えてしまった。
事件から9年経った今、彼は振り返る。
“あの時のトラウマ(死の恐怖)は乗り越えた。しかし、なぜすぐ職場に復帰せず、訴訟戦にのめり込んでしまったのか。それが、悔しい。”
彼が掛かった本当の罠は、エレベーターそのものでなく・・・
これらのお話の教訓は何だろう?
少なくとも三つ。
・なるべく階段を使おう
・エレベーターのドアは強く引けば開く
・エレベーターに長時間閉じ込められることがあり得る※1
それ以上の点は、皆さんの感じたままに。責任追及の意味と、日常を取り戻すことの価値。
その軽重を、間違えないように。
※1 05年7月の千葉県北西部地震では、首都圏のエレベーター6.4万台が停止した。しかし保守人員は2500人のみ。最高3時間50分の閉じ込めが発生した
出所:THE NEW YORKER(オンライン版 4/21/2008)
初出:CAREERINQ. 2008/05/15
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