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第36号 諸先輩の金言集(後編)

ホント、楽しいよ

毛色が変わって、これは構造計画研究所 社長の服部正太さんの言葉だ。彼とは仕事を直接ご一緒する機会はなかったが、その後もたまにお会いしてお話しさせていただいている。

その度、彼は言う。

「三谷さん、楽しい仕事やってる? 構造計画はホントに楽しいことやってるよ!」


1959年に設立された構造計画研究所は、情報システム・サービスの分野で、常に最先端だ。もともとの建設・土木での「構造計算」の強みをもとに、技術系エンジニアリング会社として非常に高い専門性を誇っている。通信・IT分野での基幹ソフトウェア開発、建設分野でのCAD(Computer Aided Design)構築・販売、製造分野でのリスク分析ツール(Crystal Ball)等々、各分野の専門家で知らぬものは無い独自の商品・サービスを提供する。

その経営スタンスはかなりユニークだ。

HPでの経営方針には、「『ビジネス・マインドに裏打ちされた真摯な技術者集団』へ進化を遂げ」「高付加価値提案を実現する」ために「閉じこもらないコラボレーション」「失敗を糧にするフィードバック」「情報技術の進化に負けないスピード」を実現していくとある。

いずれも通り一遍ではない言葉・表現であり、中に秘めた思いの強さが感じられる。


彼との話で必ず出てくるのは「楽しさ」だ。

創造性の高い技術が、顧客のために活かされることの価値や純粋な楽しさ、自信が伝わってくる。

ヒトと違うことをするからこそ意味がある。他人や他社と同じでないことの「居心地の悪さ」よりも、違うことの「ドキドキ感」をこそ楽しもう。

やっぱり仕事はこうでなくちゃね。


余談だが、構造計画研究所にシーエーシー(1966年コンピュータアプリケーションズ=CACとして設立)とSRA(1967年設立)を加えた3社が、日本における「独立系システムインテグレータ」の草分けだ。

何れも「言われたままの下請けはやらない」という信念をもって創業され、以来、上流志向の強いシステムインテグレータとしてこの変化の激しいIT業界を40年にわたって生き抜いている。尊敬すべき企業群だ。

Think Straight, Talk Straight (単純に考え、率直に言う)

先輩、という分類には当たらないが、私が尊敬する元同僚を二人。ヘイドリック・アンド・ストラッグルズの日置克史さんと、エイムネクスト(www.aimnext.co.jp)社長の清威人さんだ。

二人ともアクセンチュアで「番を張っていた」名物コンサルタント。

アクセンチュアの企業文化である「Think Straight, Talk Straight(単純に真っ直ぐ考え、率直に言う)」を体現していた新進気鋭の若手幹部だった。


1996年秋、アクセンチュアに転職した直後、私は新しい環境の中で途方に暮れていた。

社内に私を知っている人が殆どいない。社内各部署に問い合わせで電話しても「でぃーびーに書いてあります、それを見て下さい」と言われて終わり。

いや、DB(データベース)を見ても分からない、もしくは目的のDBが見つからない(当時は社内ポータルが整備されていなくて数百のDBが乱立していた)から電話してるんだけど・・・。

覚悟はしていたけれど、新しい組織の中で生きていくって、やっぱり大変なのね。


仕方ない、兎に角、直接の知り合いを増やすしかない。私は片っ端から部署を訪ね、食事に誘い、相手を知る努力、自分を知ってもらう努力を始めた。


最初の仕事(プロジェクト)もまだ決まっていないある日、同じ戦略グループの同僚であった日置さんが、私に声を掛けた。

「三谷さん、私がやっているプロジェクトのアドバイザーをお願いできませんか」


日置さんが戦略グループ屈指の超強力コンサルタントであることを(あまり)知らなかった私は、二つ返事で引き受けた。

「ええ、もちろん、よろこんで」

それから数ヶ月間、彼は私と二人、週一くらいでディスカッションを続けた。

基本的には彼が自身のプロジェクトで作っていた資料やストーリーを説明し、それに私がその場で必死にコメントする、という形だ。彼はふんふんとそれを聞き、私のコメントの本質を探り出す。

たいていの場合、翌日すぐに彼は、「改良版」を携え再戦を挑んでくる。

「昨日頂いたアイデアを自分なりに考えて、枠組みを作ってみたんですけど、見ていただけますか」と。アイデアの単純な適用に留まらず、そこには必ず、彼なりのプラスアルファ、いやそれ以上の工夫や独創があった。

こういう議論自体、とても刺激的で楽しいものだった。しかし、私が何より彼に感謝し、尊敬したのは、彼の「学ぶ姿勢」だった。


日置さんは純粋に私から、考え方やアプローチを「学ぼう」としてくれていた。

新しい組織の中で自分の居場所や価値を探しあぐねていた当時の私にとって、これは何より嬉しかった。


清さんも同様だ。同じ所属ではなかったが、ある日突然声を掛けられ、彼の主催する社内勉強会での講師を頼まれた。

「三谷さん、なんか教えてやってくんない?」

「商品企画とか、製品企画とかに役に立ちそうな、なんか」

彼もやはり、自身のプロジェクトへのアドバイス、サポートを私に「頼んで」くれた人の一人だ。その後も、ただの飲み友達として色々なことで私を「使って」くれている(含む、夜の席)。


そう言った中で、私は感じていた。

「頼られる、って嬉しいこと」

「それはきっと他の人も同じ」

「自分ももっと人を頼りにしないと、いけないな」


ともすれば、内心密かに増長し、独立独歩で行こうとしすぎる嫌いが、私にもある。それを自ら諫めるようになったのは、お二人との付き合いのお陰であったように思う。


さて、きりがないので私がこの20年、諸先輩・同僚たちから受けた、ご指導ご鞭撻の紹介はこれくらいにしよう。

私がひとつ、自慢できることがあるとすれば、こういった言葉や教えを、取捨選択しながらもちゃんと守り実践してきたことだろう。20年間、一歩一歩。


人真似から始めよう。そのうちきっと自らの血肉に。

初出:CAREERINQ. 2008/01/15

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