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第36号 諸先輩の金言集(後編)

リテール特化とは「田舎の銀行」と言われて怯まないこと

前回に引き続き、私が頂いた諸先輩からの金言を紹介しよう。

上記は、現・早稲田大学ビジネススクール教授のIさんが、ある大手地銀の役員向け報告会で言い切った言葉だ。

当時まだ多くの都市銀行※1(死語)は、海外ネットワークや法人向け国際事業、証券事業を無闇に強化していた。

そういった中、その地銀は中期ビジョンで「リテール特化」を打ち出した。慧眼である。

ただ、なんともそのビジョンと諸戦略がかみ合わない。

リテール、つまり一般庶民からお金を集め、貸し、サービスして、その利鞘で生きていくことを目指しているはずなのに、肥大化した国際事業は若干の縮小のみとか、優秀な人材は証券事業にとか。


業を煮やした彼は報告会で役員達に問いかけた。「本当にやる気ありますか?」

「『田舎の銀行』といわれるのがイヤならリテール特化なんてやめましょう」

「中期ビジョンを決めるということは、中長期的にヒトを動かして貼り付けることです。それが出来ないならどんなビジョンもムイミです」

「方向を変えるということは、非常に気持ちが悪く、居心地の良くないものです。それが当然です」

「で、どうしますか」


これは、しびれた。 当時彼は40才ちょっと前であったと思う。彼が大手地銀の役員陣を相手に示した、改革への気迫は冷たく強く燃える炎のようであった。


彼からはもう一つ、大事な姿勢を教わった。それは「So what?」という問いだ。

彼は旧都銀及びHBS(ハーバードビジネススクール)出身だったので、我々新卒軍団は、彼にファイナンス関係の社内研修講師を何回かお願いしていた。

ある時、提出させた事前課題レポートを採点して、ニコニコしながら参加者に手渡した。

私に対しては「よく頑張ったね」と暖かいお褒めの言葉が。

ウキウキしながら受け取ったレポートを見てみると、赤ペンで彼がコメントを入れている。

そこには毎ページ毎ページ「So what?」が連発。

「だからなんなの?」

「これだけじゃ分からないよ」

「A社の方が在庫日数が多い・・・それで?」


10ページ余のレポートに、多分、全部で20個はSo what? (だからなに?)が列んでいたと思う。自分の甘さを思い知った瞬間だった。

レポートを書いていた時は、なんとなくそれで理由になると思っていた。

でもそうじゃなかった。

XX事業は八百屋なんです、XXは大根です

アクセンチュア トップマネジメントMさんの「比喩」は秀逸だ。

ある大手メーカーでの新規事業プロジェクトでのお話し。報告内容は出来上がっている。先方のチームメンバーとも摺り合わせ済み。ただ、その日は担当役員に対するお初の報告会。

そういったときの上の者の役割とは何だろうか。もちろん最終責任者としてチームをバックアップすることなのだが、彼の取るひとつの手は「報告内容・メッセージを、ひとつの言葉・表現で、わかりやすく表現すること」だ。

対象はズバリ顧客の最終責任者である役員レベル。

メンバーでなく、リーダーでもなく、そのプロジェクトのオーナーとして覚えておくべきことは何か、持つべき感覚は何か、それに特化しての「ひとつの言葉・表現」だ。


一般的に言えば、新規事業は失敗する確率が非常に高い。知らないことをやるのが新規事業だから当然なのだが、大きな原因は「感覚のズレ」にある。

本来事業とのスピード感覚、顧客ニーズ感覚、リスク感覚等々のズレが、間違った判断や態勢に繋がってしまう。本業で強ければ、そのズレはなおさらに大きい。

メーカーは「新品」を売って儲けている。新品の販売は独占的(メーカーチャネルでしか買えない)であり、同じものが1~2年変わらず売られ、粗利も大きいからじっくり販売していられる。

しかしその事業では状況は全く違っていた。チャネルは群雄割拠、数週間で売れ筋がどんどん動き、粗利も薄い。


彼はそれを「八百屋」だと言い切った。

「間違えてはいけない。XXは大根なんです、生鮮食品なんです。売れないならすぐ入れ替えなきゃダメです」

「だからXX事業は八百屋と同じですよ。回転勝負!新品と同じだと思っていたら、必ず失敗します」


この時の担当役員の方は、後々までその比喩を覚えられており、折に触れ「あれで目が覚めました」と語られていた。

※1 一般に、第一勧業、富士、住友、三菱、三和、東海、三井、東京、大和、太陽神戸、協和、埼玉、北海道拓殖の13行を言った

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