第28号 教えず導く(小学生編)
非天才のInnovative Thinking
そして、もう一つ、私が必要と感じているものは、Innovative Thinking(創造思考)だ。但し、天才の持つそれではなく、凡才が持ちうる力として。
今の世の「独創」の上位10%は天才によるものだろう。天与の才を持つ人口比0.1%の彼・彼女ら(gifted もしくは genius)は、芸術・武術、政治・経済、科学・工学、思想・哲学など様々な分野で次々と独創を生み出している。
敢えてその才を分解すれば、面白そうな(普通のヒトには全く不可能と思える)テーマを見つける力、そして、それを解決する全く新しいアプローチを見つけ出せ・実行できる力、の二つになるだろうか。
アインシュタインにはそれがあった。ダ・ヴィンチや千利休、ソクラテスにも。
世の中の、しかし、中位70%の独創は人口比10%ほどの非天才によるものだ。彼・彼女らを秀才とは呼ぶまい。これは知識や学力の問題ではないからだ。ここでは仮に「自在人」と呼ぼう。
天才級の圧倒的な才能が無くとも、ヒトは「自在」であれば、多くの独創を生み出せる。普通のヒトにはかなり不可能と思える、だけど面白いテーマを見つけ、それを解決するかなり新しいアプローチを見つけ出し、実行することが出来る。
囚われる心、自在な心
大抵のヒトは知識に縛られ、智慧に溺れる。勉強したマジメなヒトほどそうだ。
まずはそれに気が付くこと。自分が如何に「常識」という名の型にはまっているのかを。そして、それを打ち破るべく努力すること。
これらは全くカンタンではないし、残念ながら何か決まった方法論があるわけでもない。トヨタ式に「なぜを5回繰り返す」ことも有効だろう。もしくはリクルートのように面白い人材を集めまくる手もある。
外資系の経営コンサルティング会社もそんな場の一つだ。常識の壁に挑み、面白い(突破口となりそうな)領域を見つけ、新しい解決方法を何が何でも創り出す。その全プロセスで先人たちの突破経験や各人のモチベーションの高さ、考え抜く力が活かされる。
そんなことを何年か続けていれば、流石にそんな「自在」センスも身につくというものだ。
いや、そういう職場でなくとも、自らを訓練する方法は多分幾らもある。
まずは自分を拡げることだ。外に出て、人と話し、本を読もう。仕事だけでなく、趣味や社会活動にもっと時間を割こう。
自分の「常識」と違った考え方やアプローチを色々見よう。そしてそれらの本質を探っていくうちに、きっと「その場を支配するメカニズム」が分かる。
「点(ある事象:ヒトでも会社でもなんでも良い)」が一つなら他と比べようもないが二つあれば「線」が出来、その間や延長上に何かがないかを考えられる。
では三つあったら?今度は「空間」が見えてくるだろう。ではその空間を定義付ける「軸」は何だろう。XYZなのかABCなのかそれともαβγなのか。見る点を増やす、つまり色々な経験をするというのは、それ(多様な軸)を考えることにこそ価値がある。
点そのものや既存の軸に囚われない、自在な心。
ではそれを、どう子供たちに伝えるのか。
きょうは「ボール」のおはなしを、します
ぴかぴかの小学一年生たちに、たった数分間で伝えたかったこと。それは「驚き」と「本質的理由」だ。
ボールの話にはそれがある。
大人たちは子供たちに対し口々に言う。「廊下は走るな」「車には気をつけろ」
なぜなのだろう。なぜ走ってはいけないのか、なぜ自動車に気をつけなくてはいけないのか。
それは、「ぶつかったら負ける」からだ。重いものと軽いものがぶつかれば、必ず軽い方が負ける。体重20kgの一年生と40kgの六年生がぶつかれば、一年生が2倍吹っ飛ぶ。1.5トンの自動車となら75倍、10トン車となら500倍だ。
一年生を前にして、私はポケットから小さなボールを取り出す。「これは、何のボールかな?」
「ピンポンだま~~」
別のポケットから「じゃあ、これは?」
「やきゅうのボール~~」
よく分かったね。
さて問題です。この二つがぶつかると、一体どうなるでしょう?
やってみようか。
テーブルの上、数十㎝から二つのボールを雪だるまのように重ねて、そっと落とす。
テーブルにぶつかった瞬間、上のピンポン球は、下の野球ボールに強く弾かれ1メートル以上飛び上がる。ぽーーーーーっん。
「うゎー」
じゃあ、みんなの周りで動いている、一番大きなものは何?
「ちきゅう~~」
それは大きすぎるなあ。
「じどうしゃ~」
そうそう。
私はやおら直径1mのバランスボールを取り出す。「でかーーー」
これを自動車だとしましょう。これと、野球ボールではどうなるでしょう?
やってみよう。
今度は上にした野球ボールが、見事、上空3mに跳ね上げられる。
「おーーーっ」
分かりましたか?
重いものと軽いものがぶつかったら、必ず重い方が勝ちます。軽いものは吹っ飛ばされます。
だから絶対、6年生にはぶつかっていかないように。そして自動車にも、ぶつかっていかないように、ぶつかられないようにして下さい。
分かりましたか。
「は~~~い」
驚きのあるところに探求心が芽生える。
ヒトは「なぜだろう」を考え出す。そしてそこには本質的理由がきっと見つかる。
小学生6年間の最初の一日が、そんなきっかけになれば、いいな。
初出:CAREERINQ. 2007/04/27