第24号 超長編小説としてのTVゲーム(中編)
FFVIIのビジネス上の革新性
FFVIIの中身が素晴らしいのはこれだけ売れたのだから当然として、VIIには更に2つのビジネス「革新」がある。
一つは「新機種」に乗ったこと。しかも実績の全くない後発プレーヤー、SONYのPS(プレイステーション)に。
もう一つはFFシリーズで初めて「派生商品」を多数、展開したことだ。これまでにAC(アドベント チルドレン 05年9月)、BC(ビフォア クライシス 04年9月)、DC(ダージュ オブ ケルベロス 06年1月)、DCLE(同 ロスト エピソード 06年11月)が発売され、更にCC(クライシス コア)が07年に予定されている。
FFシリーズは、同じブランドを冠したシリーズでありながら一つ一つがほぼ完全に独立した舞台設定や主人公、ストーリーを持っている。
その原則を初めて崩したのはFFX(01年7月発売)の続編であるFFX-2(03年3月)だった。
以降、特に人気の高いFFVIIの派生商品が「Compilation of FFVII」として展開されていく。
しかも、ACは映像作品、BCは携帯電話向けのオンライン・アクションRPG、CCはPSP(プレイステーション ポータブル)向けアクションRPG、DCはPS2向けのガンアクションRPGと、形態も内容も対象ハード機もバラバラだ。
これは何故か?
ただ売上や収益が目的なら、ハリウッドに倣って純粋な続編を出し続ければよい。特にAC(アドベント チルドレン)などは殆ど映画であり01年に大失敗したフルCG映画「ファイナルファンタジー」(139億円の損失を計上)の二の舞となる可能性も充分あっただろう。
当初20分の作品のハズが、なんと5倍に膨れあがり100分モノに。40名程度のスタッフが2年以上を費やす大作となった。悪夢の再来か・・・
ACでスクウェアが目指したのは、「映像作品での新しい成功パターンの確立」だった。
大衆向けの「映画」でなく、マニア対象でDVD主体の「OVA(Original Video Anime)」的ビジネス。
結果的には世界で240万本以上を売る大ヒットとなり、新生スクウェア・エニックスに数十億円の利益をもたらした。
BC(ビフォア クライシス)には、より大きな「使命」があった。それは「携帯でのオンラインゲーム事業の確立」だ。
スクウェアは02年のFFXIIでPC向けのオンラインゲーム事業を成立させた。04年初にはスクウェア・エニックスとしてFFI・ドラクエIの移植版を携帯端末(FOMA 900iシリーズ)に搭載した。
BCは初めての月額課金の携帯オンラインゲーム。スキマの時間で遊んで貰い、ストーリーを徐々に配信することで、長く収入に繋げる。
これらは全て、次世代に向けたスクウェア・エニックスの「ポリモーフィック(多態性・多様性・多相性)」な「実験」だ。
目指すモノは強力なコンテンツ(世界観)を核にした、複数作品の複数形態での長期提供。これでファンを10年以上にわたって深く掘り続け、1商品群で全世界総額1,000億円売り上げることを目指す。
次期FF、「FFXIII ファブラ ノヴァ クリスタリス」では、PS3向け2作品と携帯向け1作品がほぼ同時に展開される。日本のゲーム産業のトップランナーたるスクウェア・エニックス。その大戦略の成否を見守りたい。
FFXが問い掛けるもの
ファミ通06年3月17日号「読者が選ぶ心のベストゲーム」で、FFXは堂々1位※1に選ばれた。
世界で800万枚(うち海外500万枚)を売り切った巨大グローバル商品であるFFXの、普遍的価値は何だったのか。
PS2最初のFFとして、他を圧するCG力は見事だった。特に「表情」を創る技術の進化は目覚ましい。少しだけ目を細める、頬をゆるめる、そういった「仕草」で重要な感情を伝えることをトライした、CG史上の記念碑的作品とも言える。
ただ、そういった「技術」より、普遍的でかつ衝撃的だったのはFFXのストーリーそのものだ。
キーワードは「存在」
もちろんここで、50時間以上掛かるゲームの謎解きをするつもりはない。ただ、幾つかのシーンと名セリフを。
「生命は所詮空しい夢 生の後に来る死こそが永遠」と迫る敵役シーモア。
そして知る、主人公の存在の秘密。描かれるのは将に「胡蝶の夢」、揺れる自らの存在。
しかし彼は最後に言い切る。
「これがオレの物語だ!」
この感動を味わいたい方は、どうぞ自分自身でプレイを。最短クリアは30時間ほどだそう。
私はじっくり100時間コースだったが・・・
次号では後編として、「信長の野望」「三国志」といったシミュレーション系のソフトを論じよう。
戦いだけでなく、産業開発、治水、課税、徴兵、人材登用、人事異動。戦いもまずは調略とタイミング取りから。
これぞ、戦略。
※1 2位はFFVII、3位はドラクエIII、4位がドラクエVIII
初出:CAREERINQ. 22007/01/04