第23号 超長編小説としてのTVゲーム(前編)
暗喩の力「天外魔境II」
もう一つの究極作品が、92年ハドソンが送り出した「天外魔境II 卍MARU(まんじまる)」だ。
これは非常にマイナーなゲーム機、NECのPCエンジンシリーズのCD-ROM2(シーディーロムロム、と読む・・・)上で動くゲームだった。
CD-ROM2は超マイナー・高価格ながら、ゲーム機性能としては群を抜いていた。その性能とゲーム媒体(その名の通りCD-ROM)の大容量を生かしきった、この世で最初のゲームがこの「天外魔境II」だ。
今では当たり前の「声優」「フルアニメーション」「フルオーケストラ」「長編ストーリー」「イベント満載」をこの作品は一気に実現した。
それだけでも衝撃の一品だったが、この作品は原案者である広井王子という鬼才が、最も光を放った作品でもあった。
古代の日本を舞台にした「火の一族」と「根の一族」の数千年にわたる永き戦い。それに巻き込まれる主人公 卍丸とヒロインの絹(きぬ)、そして彼女が背負う宿業。
「絹は『鬼怒』と書いてキヌ!」
私がこのRPGにはまった理由はなんだろう。
この物語には出雲の「国引き神話」や「因幡の白ウサギ」、吉備の「鬼退治」といったお馴染みの物語が、イベントとして、またストーリーの伏線として随所に組み込まれている。
それがこのTVゲームを、その作品中だけに留まらない、深く広いものにしている。
それは、暗喩の力と言えよう。
「出雲」や「鬼」「白ウサギ」に対して多くの日本人が持つイメージや想起する言葉を利用することで、語らずして想像させる。ヒトは自ら想像したものの中にたやすく没入していく・・・
ほぼ完全な移植版が、任天堂DSで出ている。本当に楽しむにはCD-ROM2版だが、そのためには、まずはハード機をネットオークションで落札して・・・
そしてFF(ファイナルファンタジー)X(テン)
新し目のものも一つあげよう。それはFFX。FFの第10作目だ。
FFは83年、スクエア(現 スクエア・エニックス)によって第1作が世に出された。
不振のゲーム事業の「最後」の切り札として開発された商品だ。これが売れなければゲーム事業撤退、という将に背水の陣から生まれた秀作だった。
最先端の映像・CG技術を追究し続けるゲームシリーズとしても有名で、最新のFFX IIでは投じた開発費がなんと50億円超とか。
XIIの市場での評価はイマイチだがそれでも06年11月時点での売上が、日本240万本、北米150万本で計390万本、売上高では単独で350億円を超える(定価ベース、欧州では07年春発売予定)のだから恐ろしい。
さて、FFXの話だが、ちょっと長くなったので次回のお楽しみとしよう。
キーワードは「存在理由」
世界で800万枚(うち海外500万枚)を売り切った大ヒットゲームには、一体どんな秘密があるのだろう。
FFは既に海外売上の方が多いグローバル商品だ。日本神話や日本語の力に頼らない、普遍的商品力の源は何か!
テレビと同様、いやそれ以上にTVゲームは危険な代物だ。なにしろ時間が掛かる、掛かりすぎる。優れた映画とも本とも思えるが、読破に100時間掛かるのではやってられない。
社会人たるもの、その魔力に正面から立ち向かってはいけない。身の破滅を招きかねない。
もしその魅力を直接に味わいたいなら、「ゲーム好き」を見つけて「覗き見」させてもらうのが良いだろう。様々な蘊蓄(うんちく)を聞く羽目になるかもしれないが、それくらいは許してあげよう。
なにせ掛けている時間やモノが桁違いなのだから・・・
初出:CAREERINQ. 2006/12/01