第22号 テレビに学ぶ(後編)
テレビの支配者、広告
私自身のテレビとの関わりは他にも「深夜アニメ」という深いモノがあるのだが、これはいつか「アニメ(前・中・後編)」くらいで紹介することとして、CMのお話しだけ、少し。
若手コンサルタントには「マーケティングのプロジェクトをやりたいんです」「消費財に興味があって・・・」「ブランドのプロジェクトを是非」といった人間が多い。
でも、私は冷たく言い放っていた。
「ふ~ん」「じゃあ、最近のテレビとかCMとか見てる?」「深夜じゃなくて昼とか夕方は?」「平日は?」忙しいみんなの答はもちろんNo。
「それじゃ、ダメ」「そんなんで消費財を語ろうだなんて、勉強不足、おこがましい」
でもこれは意地悪でも何でもない。その通りなのだ。企業が年間何兆円も掛けて流しているテレビCM、各種番組。これの「心」を知らずして、消費財など語れようか!
資生堂「つばき」の例を挙げるまでもなく、この世はまだまだマス広告で動く、マス商品で溢れている。
そういう販促手段としてのCMではあるが、同時にそれは、一秒当たり最もお金が投入されている至高のコンテンツでもある。
言葉に出来ない、Amazing Grace、and I love you
最近のもので言えば、この3つだろうか。
明治安田生命の「たったひとつのたからもの」はオフコース(小田和正氏)の「言葉に出来ない」を使って、6才で夭折したダウン症の息子を思うご両親の気持ちを伝え切った。
平成4年10月19日 神様からの贈り物が届きました。
生後一ヶ月 ダウン症と判明。合併症が原因で 余命一年と告げられる。
それでも 少しずつ 大きくなっていく姿を 見る喜び。
何を見ても 何をしても あなたは うれしそうでした。
運動会、一歩、一歩 ゴールをめざしました。
生きる・・・。
ただ精一杯 生きる。
秋雪(あきゆき)と過ごした6年の日々。
あなたに出会わなければ 知らなかったこと・・・。
ありがとう。
骨髄移植推進財団をAC(公共広告機構)が支援する「ドナー推進登録」CMは、2005年11月、急性骨髄性白血病でなくなった本田美奈子.さんの遺志に基づいて作られた。
流れるのは彼女自身による「Amazing Grace」
白血病なんて、怖くない。
そう言える日がくることを、信じてる。
私たちだって、なにか
できるはずだ。
白血病に、負けない。
負けさせない。
彼女自身は、骨髄バンクに適合者が見つからず、移植の道は閉ざされた。みなさん、ドナー登録、しましょう。登録自体は極めて簡単。私は、このCMで、登録を決めた。(http://www.jmdp.or.jp/)
日清カップヌードルはこの30年間、素晴らしいCMを提供し続けてきた。
直近は大友克洋氏との「FREEDOM」シリーズだが、その前が「NO BORDER」シリーズ。そこでトリを飾ったのが第7作目「宇宙編」だった。
ロケ地は高度400kmの国際宇宙ステーション。そこに、飛び散らず、100℃以下で作れる特製カップヌードルが6カップ持ち込まれた。
ロシア人飛行士たちが談笑しながら、表面張力で丸まったまま空中に浮かぶスープを口に運ぶ。
後ろに流れるのはMr. Childrenの「and I love you」だ。
最後に青い青い地球が画面一杯に映り、テロップ。
この星に、BORDERなんてない。
広告の、学び方
ちょっと反則だが、CMだけを濃縮して学ぶにはCM総合研究所の主催番組「CM INDEX」を見る手もある。
30分間でその週もっとも評価の高かったトップ10 CMの解説や、新作CM紹介が役に立つ。(http://www.cmdb.jp/)
ここでは、あるCMがどれだけオンエアされ、男女年代別に何が評価されたのかが「全て」集計されている。加えて、目白大学 奥野貴司教授の専門家らしい押さえた解説が好ましい。
繰り返すがテレビは両刃の剣である。最強のコンテンツを提供し、それと共にヒトの思考を停止させる。それを知りつつもなお、探索する価値がテレビにはある。
決して呑まれぬよう、慎重な探検を。
初出:CAREERINQ. 2006/11/01