第22号 テレビに学ぶ(後編)
教育テレビが、熱い
最近、NHKの教育テレビを見られたことがあるだろうか?
低視聴率の公共放送という特性(?)を存分に活かした、突き抜けた番組が目白押しだ。
「ピタゴラスイッチ」「にほんごであそぼ」といった子ども向け番組、「英語でしゃべらナイト」といったバラエティ系語学番組。他にもプチプチ・アニメと称して「ニャッキ!」「ナッチョとボム」といった5分間アニメ・・・
他局では絶対作り得ない、独創的かつ高品質な番組がぎっしりだ。
釈由美子さんがメインである「英語でしゃべらナイト」(2003年から)では、毎回、釈さんが英語でゲストにインタビューするという「セレブインタビュー」コーナーがある。これまでのインタビュー数は通算100を超えるという。
この顔ぶれがまた凄い。
ソフィー・マルソー、ジェニファー・ロペス、キャメロン・ディアス、トム・ハンクス、そしてカルロス・ゴーンも(以上敬称略)。
番組が始まった頃、まったくインタビューアーとして「ダメ」だった釈さんの、地道な進歩ぶりが、なかなかよい。その彼女の向上心(モチベーション)の源も番組初期の「大失敗経験」だ。
「インタビューで聞くことを、前日もの凄く練習したのに、いざとなったら真っ白になってしまい、殆ど喋れなかった」「これじゃ駄目だと、そこで一念発起した」
英語でしゃべらナイト: 学びへの誘(いざな)い
ただ、この番組の最大の特長はその「エンターテイメント性」だ。先回紹介した中学英語教師 田尻氏の場合もそうだった。
「遊びの中でこそ、ヒトは学べる」
番組のチーフ・プロデューサー 丸山 俊一氏は言っている。
「教育学の先生方から最大の教育的効果を上げるのは(特に語学の場合)、言語を取得していると思わせない方がいいと聞きます」
「この番組の場合であれば、英語ではなく違うものを勉強していたら、それがたまたま英語だったという流れがいいようです」
「「勉強しなくちゃ」と思うと構えてしまってダメですね。この番組でも、効果的な誘(いざな)い方について常に工夫をしています」
しかしながら、真に学ぶべきものは単に英語という『言葉』だけではない。コミュニケーションが成り立つために必要なのは、
「言葉の背後にある文化=『英語的思考』であり、『英語的論理』でもある」(丸山氏)
もっと正確に言えば、その英語を話す相手の民族的思考パターンや論理性を理解しなくてはいけないということだ。アメリカ人相手に日本人特有の曖昧さは通じない。日本語を直訳しても決して相手には理解されない。
“So what?(だから何?どうしたいの?)”
と聞き返されるのがオチだ。
私のINSEADでの個人的経験から、英語を話すときの必須要素をもう一つ付け加えるならば、それは『英語的気合い』だろうか。
まるで俳優のように、自分を追い込み、盛り上げ、性格を明るく前向きに・・・それで初めて西洋人の中でちゃんと英語を喋られる。
ピタゴラスイッチ: 問題発見力を高めるために
「ピタゴラ装置」「10本アニメ」「ポキポキアニメ」「アルゴリズム体操」「おとうさんスイッチ」「○と△のしゅうだん」などのヒットコーナーをもつピタゴラスイッチ(2002年より)は慶応義塾大学佐藤雅彦研究室との共同製作。
草彅剛、岸部一徳、井上順、車だん吉などを声優やナレーターに起用する贅沢番組でもある。
ここでのテーマは「考え方」だ。
番組ディレクターの古屋光昭氏が目指したものは問題を解決するのではなく、発見できる子どもを作ること。その為には「Entertainment(楽しませる)」を超えて、子供たち自身の「Interest(自らの興味)」を引き出すこと。
しかし、普通の「教育」番組は『親切すぎる』と彼は思った。だからピタゴラスイッチでは『考え方の発見』と『考え方の暗示』しかしない。『説明』は、無しだ。
もともと4~6歳児をターゲットとするこの番組。最近は大学生や20代の熱心な視聴者も多いらしい。一度、皆さんも如何?
「考え方」とその「伝え方」が見えるだろうか。