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第17号 家造りに学ぶ(前編)

ソリューション(間取りと外見)は「創造力」が勝負

これらのソリューションたる間取り案は、3ヶ月掛けて結局、A、B、B’、C、C’、C”、D、D’、D”、E、E’、E”、F、F’、F”、G案と進化し16版に及んだ。

今改めて見返してみると、住宅メーカー(積水ハウス)設計士と打ち合わせて作った最初の素案であるA案は、全く原形を留めていない。

B案以降は全て、私の設計士である友人 岩淵氏(大手ゼネコン勤務、普段は大きなビルや都市計画専門)が、出してくれた間取りアイデアに基づいたものだ。

私と住宅メーカー設計士は結局、彼の基本アイデアを修正・改良し続けていたに過ぎない。


その間取り案(B案の原型)は秀逸だった。4つの基本コンセプト(目的)を実現するために大胆に空間を「ムダ」にし、囲み、繋げていた。

空間的な効率を求めるなら、居間(LDK)を中心において、その他のものを周囲に直結することだ。

廊下も要らないし、建物を四角く作りやすい。

しかしそこには奥行きも面白みもない。空間同士を区切るのは一枚のドア。空けた瞬間、つながってしまう皮相で脆弱な区切りだ。


逆に2階の間取りによくある、一本廊下に接して4つの個室。これも効率は高い。しかし今度は空間を区切る力が強すぎて、賃貸アパートと変わりない。かつ鬼ごっこなど出来はしない。

新居の敷地は100坪、普段住むのはたった3人。下手な空間効率は必要ない。求めるものはコンセプトの実現だ。


彼は私たちに大きなムダを3つ提案した。(1)センターコア、(2)回廊、(3)吹き抜け、だ。

センターコアというのは専門用語ではないかもしれない。何かというと、お風呂や洗面、階段、玄関といった箱状の固まり(コア)を、間取りの真ん中(センター)に持ってくるというやり方だ。

もちろん普通、こういったモノたちは、家の外縁にキチンと寄せ集められている。効率を求めれば当然のことだ。

しかし、1階空間を、応接(public)、ダイニングキッチン(semi-public)、寝室(private)の三つのゾーンに分けた上で、その間を壁やドアで区切るのではなく、間にコアを設置することで深い奥行きと、絶妙な接続感を出している。

次のゾーンに進むためには、コアをぐるっと回り込まなくてはいけない。ゾーン間は視線が通らず、でも空気は繋がっている。

家の真ん中にお風呂、事件

問題は、コアを何にするかだ。

ダイニングと居室群の間には、結局洗面所と風呂をコアとしておくことに決めた。これは戸建て住宅では、ありえない間取りだったらしく、積水ハウス内で相当の波紋を呼んだ(らしい)。

湿気が屋内にこもるのを嫌うがために、普通風呂は必ず外周に接して設置される。それが戸建て住宅での「常識」だ。

実際には最近のユニットバスならその心配はそれほど要らない。湿気もほぼ完璧に防がれているし、むしろ浴室の保温性等に優れるという利点もある。家の真ん中にあるから、お風呂に入ったとき「寒い」と感じる※1ことがほとんどないのだ。

ただ、「非常識」だったが故に、担当の設計士さんは相当苦労したようだ。

毎回の社内の設計会議で採り上げられ、

「これは(まさか)我々から提案したわけではないのだろうね」「いえ(とんでもない)、施主がどうしてもとおっしゃるので・・・」

という問答を繰り返していたらしい。


コアを取り囲む「回廊」の設置も担当設計士の嘆息を買っていた。

「この回廊部分だけで6畳分はありますねえ・・・」「東京ではありえないですねえ・・・」

でもこれで鬼ごっこには最適の間取りとなった。


鬼ごっこの本質は「回遊性」にある。つまり空間に2箇所以上の出入り口があることだ。

だから2階の大きな納戸にもドアが左右両端に2枚ついている。子ども部屋にも通常のドアのほかに、ベランダに出るドアがあり、それは2階の居間に繋がっている。これらは全て「鬼ごっこ」のためなのだ。


もうひとつのムダは家の真ん中にある大きな吹き抜け。

1階と2階の空間を繋ぐためのパイプでもあるが、第一の任務はキッチンに光を導くこと。

母のいるキッチンと、みなの集うダイニング、そして南側の庭。これをどう組み立てれば母の居場所からの眺めを最高のものに出来るのか。

結果、ダイニングは南側に大きくフルオープンのサッシを入れて庭に接し、オープンキッチンがダイニングの北側に接する。つまり北側にいる母から、ダイニングを通して庭とその先の畑と田圃が見張らせる形だ。

ただこれではキッチンが暗くなる。光を入れたい。それだけのために2階の空間が大きく削られ、ダイニング上空の吹き抜けとなり、太陽を家の北側にまで導き入れる光の道となった。


友人設計士の「仕事」を見ていて分かったこと。それは、よい解決策つくりにこそ、創造性が必要となる、ということ。複雑で自由度の高い問題であればあるほどそうだ。

一般には問題解決能力より問題発見能力の方が磨きにくい。巾が広く定型化が難しいからだ。

しかし、このように解決手段の巾や種類が非常に広い場合、問題解決も簡単ではない。そこには独創的な発想や切り口が必要になる。

彼の発想の源はおそらく、一般住宅ではなくより自由度とかつ制約の多い商業ビルの建築にある。センターコアなどは美術館などに見られる手法だ。

彼曰く「コーナーで処理する」。

扉でなく、「固まり」で空間を区切るやり方だが、最近は商業ビルのトイレの入り口などでも多用されている。ドアを開けてトイレにはいるのでなく、2度ほど折れ曲がってはいっていくあれだ。


発想の巾を広げるためには様々な事例に学び、そしてそこから自分なりの本質を見いだしていくことが一番だろう。

独創性のためには、より離れた世界にチャレンジするのが良い。絵画、相対性理論、格闘技・・・学びの源は、あなたの傍らに。

※2 正式にはThe United Kingdom of Great Britain and Northern Irelandグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国

初出:CAREERINQ. 2006/06/01

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