第15号 MBAに学ぶ(中編)
Japan親善大使
海外に行くと自分がJapaneseであることを強く意識せられる。日本食が恋しいとかもあるけれど、何より「日本の説明」を求められるから。
最近は欧米人の関心が中国に移っているので、中国をどう思う、と聞かれたりもするが、今でも日本は神秘の国。
市場としての魅力は薄れても、トヨタ、ホンダ、それに最近はキヤノンと松下(Panasonic)、シマノのお陰で、企業としてのJapanは大いなる驚異であり、異質の存在だ。
文化における関心も強い。欧州、特にフランスにおいては日本の文化に対する尊敬と興味が強い。
印象派の画家達が日本の浮世絵に強い影響を受けていたことは、多くのフランス人が知っているし、KOOKAÏ(クーカイ※1)というファッションブランドの看板が至る所にあったりする。
そんなこんなで、INSEAD在学中は、日本の歴史・文化から経済状況、雇用習慣、セクター別現況、主要企業の個別戦略、成功・失敗の秘密まで、あらゆることを説明させられることになった。
もともと戦略コンサルタントなので、日本を海外に説明することは仕事上もやっていたし、統計的なことにも通じていたのでなんとかなったが、それでもよく「日本」のことを勉強した。
ボランティアでの親善大使も大変だ。しかも全権委任状態である。
同時に皆が日本に対してどういうイメージを持っているのか、も分かる。ヨーロッパの人と話すと、面白いことに日本のことをアメリカよりも「近く」感じていたりする。
前回、米語と英語の差のことを書いたが、アメリカのイメージは「too much open」「too direct」それに「hegemonism(覇権主義)」だ。欧州復権を目指し、歴史と文化を重んじる欧州人からすれば「明るく無礼な侵略者」とも言える。
それに比べれば、言葉も下手で何言っているのか良くわかんないけれど、日本人の方が理解しやすい、親しみやすい、というわけだ。
日本嫌いのJapanese
でもちょっと困った質問をされたこともある。オランダの友人が自信ありげに、皆の前でこう言い放った。
「でも日本はやっぱり住みにくいんじゃないの。俺は仕事でロッテルダムのリコーに勤めていたけれど、そこにいた日本人は『日本に帰りたくない、ここで住み続けたい』って、みーんな言ってたぜ」
うーっむ、これはマズイ。
勤め先が一流企業だし、サンプル数も多い。かつ確かにそう言う面も否定できない。でもなんか違う。
INSEADの友人たちはみな英語が堪能で、物怖じもしない。でも欧州を車や電車で旅行をするとすぐ分かるのはフランスでもドイツ・イタリア・スペインでも「田舎じゃ英語は通じない」ということだ。
イタリア人のおじいさん、おばあさんと話すのに英語が全く通じず、拙いフランス語(あっちは流暢だが)で話したことも何回かあった。要は英語等が堪能で、海外でバリバリ働ける人なんて、ヨーロッパでも(まだ)一握りの存在なのだ。
ロッテルダムの日本人も、そういうことだ。
東京が日本の平均値ではないように、海外駐在の日本人も、日本人勤労者の平均値ではない。
多くの日本人にとって、海外は今でも本当は(相対的には)かなり危険で※2、言葉の通じない異境の地だ。少なくとも私の回り数十名で海外移住に踏み切ったのは1名だけだった。
ただやはり、日本屈指の優良企業の海外駐在員(の何人か?)が「日本嫌い」ということには重みがある。欧州にいてこそ分かる、日本のマイナスとは何だろうか。
※1 設立当時、たまたまパリで開催されていた日本文化展「空海」からとったそうな。インパクトのある響きと、東洋的なイメージに惹かれた、と
※2 統計上、人口10万人当たりの年間「強盗」件数は日本4件に対し、フランス41件、ロシア90件、アメリカ147件、イギリス180件。同じく人口10万人当たりの年間「殺人」件数は日本1件に対し、フランス4件、アメリカ6件、イギリス18件、ロシア22件