第8号 旅に学ぶ-日本(ヒッチハイク編)
ネクタイはツメタイ
ヒッチハイクをしても、絶対乗せてくれない車はなんだろう?
もちろんNo.1は子供連れの女性運転者。視線も合わせてくれない。これは当然。
では男性一般で比べた場合はどうだろう?
実はヒッチハイカーへの冷たさを測る明確な指標がある。それがネクタイの有無だ。
ネクタイをしている人は、ダメ、乗せてくれない。背広とセットだと完璧アウトだ。
いわゆるアンちゃん系も苦しい。一瞥してアクセルふかして去っていく。
逆に、最も好意的なのは「工事現場帰りのおじさんたちのトラック」だ。これは極めてヒッチハイク成功率が高い。
私の場合、ほぼ100%だった。イヤって言っても拉致されるくらいの勢いで乗せてくれる。ついでに夕食もおごって貰えたり・・・
問題は、たいてい方言がキツいので言葉が分からないことだ。でもニコニコしてれば許して貰える、大丈夫。
学生ながらに、世の中の真実を一つ知った。「ホワイトカラーはツメタイ、心に余裕がない」と。そして思った「こうなってはいけない」と。
農耕民族もダメ
連続30台に無視された時もある。鳥取でのことだ。
またもや始発バスを待てず、駅から霊峰 大山(だいせん)に向かって早朝の道を歩き始めた私。まわりに車も多く、なんとかなると高を括っていた。
しかし結果は見事な惨敗。2時間、8km以上を歩き続ける羽目になった。
車(特に白い軽トラ)は多いが皆、兼業農家のそれで、朝、近くの田んぼに水を見に行くだけの人たち。
親指を立てる私の脇をさーっと通り過ぎ、数百メートル先の田んぼに行ってはまた帰ってくる。いや、数百メートルで良いから乗せてくれ、と思うがそんな声は届かない。
昔ながらのムラ社会の中で、見知らぬヒトは存在を許されない。私はそんな中の完全な異邦人だ。
ここでも私は一つの真実を知る。
「ムラはツメタイ」
原則3:でもヒトは見かけによらない
同時に、例外もいっぱいあった。
私の最高のヒッチハイクはやはり高知でのものだ。乗せてくれたのはバリバリのサーファー。
後方からの車の音を聞いて、反射的に指を立て腕を上げたのだが、横を通り過ぎる車と運転者を見て「しまった」と思った。
車の屋根にはサーフボード、運転者は茶髪のアンちゃん。原則的には無駄のハズだったから。
ところが意に反し、その車が急停止。アンちゃんが車窓から顔を出し、ぼそりと言う。「乗れ。」
車中でも寡黙な、格好いいアンちゃん。
28才くらいの社会人、近くの海岸で週末必ずサーフィンをする、弟がいる、くらいのことしか分からない。音楽が流れる静かな車内。
突然彼はハンドルを切り、幹線から離れ、見通しの効かない木々が鬱蒼(うっそう)と茂る脇道に。
う、やばい・・・・・
内心ビビりまくりの私をよそに、彼は運転を続け、車はやがて崖の上に。
そこには、弓状の浜と海とが一望出来る、素晴らしい景色。彼はまた、ぼそりと言う。
「ここが俺の一番好きな場所だ」
その時の眺めを、波の音を、私は一生忘れないだろう。
大山への道でも良き例外に出会った。
最後の最後、乗せて貰えたのだ。
背後から、猛スピードのスズキジムニー、だが運転者はネクタイ付き。
期待せず上げた手の横を車は通り抜け、直後タイヤを鳴らしての急ブレーキ。ドアを開けネクタイ姿のおじさんが叫ぶ、「乗るなら乗れ!急げ!」
彼は大山の奥で行われていた土木工事の監督官。国か県かの役人で、だからネクタイをしていた。でも乗せてくれた。
うーっむ、アンちゃんにもホワイトカラーにも色々いるんだなあ。
人は見かけによらない。ではどうする?
やることは簡単、期待値の如何に関わらず、陽気に手を上げるだけの話。たいしたコストじゃない。
例え無視されても気にしなきゃいい。
私は色々な原則と共に、色々な例外とすてきな出会いをきっと得る。
そう、Just Try It. そこにはきっと素晴らしいものが待っている。
次回は日本の旅で学んだ二つめのこと。「寺社仏閣編」です。お楽しみに。
旅リスト(東北編)
- 平泉寺(藤原3代の栄華。義経はどこにいる?)
- 仙台 青葉城(良い感じ。7月末、七夕の準備をする人が街々に)
- 盛岡市内(北上川、雫石川、中津川との調和が見事)
- 青森 弘前城(早朝、街に向かって詩吟を練習する人あり。静謐な場所)
- 岩木山(9合目から徒歩。頂上からは日本海、太平洋、北海道、奥羽が一望に。全国のFM聞けます)
- 五能線(所要時間5時間。究極のローカル線。始発では、一緒に新聞が配達されていきます)
- 秋田県 角館町(武家屋敷。側溝にはきれいな水と錦鯉!そして美人の産地・・・)
- 田沢湖線、田沢湖(列車を包む緑のトンネル。湖は日本屈指の透明度。波打ち際の美しさ!)
- 山形県 新庄 鳴子峡(絶景の散歩道。こけしの産地でもあります)
初出:CAREERINQ. 2005/10/01