第7号 マスター・オブ・ライフへの道(後編)
4コマで時間がゆっくりになる
空白にこそ余韻や空想がある。「ぼのぼの」はそういう空白にあふれている。4(もしくは8)コママンガが数十連なってストーリーになっている。
お話自体も結構示唆に富むものだ。主人公ぼのぼの(ラッコ)を中心に、アライグマ、シマリスといった子どもたちが森の中で色々なことに遭遇し、探求し、少しずつ(たぶん)成長していく。
周りを取り巻く大人(の動物)たちは、妙に哲学的でその発言は意味深い。スナドリネコ、ヒグマの大将、カシラ(ひぐま)、長老さま(シャチ)、みなそれぞれの哲学をもっている。
長老さま:
「それはの このトシまで生きると よ~くわかる んじゃが・・・」
「生き物が 悩まなきゃ いけないこと など」
「この世にゃ ないような 気がするん じゃよ」
「ほっほっほ~ 今のは ないしょじゃぞ」
「言うと みんな おこるから の・・・」
しかし、もっとも味わうべきはこのマンガに満ちる「間(ま)」だ。4コマを決して、ただの起承転結に使わず、かつその狭い狭い画面を一杯に使っている。
文章で表現することは甚だ難しいが・・・例えば:
- 右下に岩場。ぼのぼのが立っている。残りは全て海。ぼのぼのは、おとうさんを探しているが潜水中で姿が見えない。
- 同じ構図。画面左上に矢印と「この辺に出てくると思っている」のコメント
- 同じ構図。矢印のみ。コメント無し
- 同じ構図。矢印から少しずれたところに、おとうさん(1㎜角)が現れる。ぼのぼののところには「あぁっ おしいっ」の太字コメント。
こんな調子だ。ほんの少しの動きとセリフ・コメントで一コマ一コマが進んでいく。よーく見ないと見落としそうな感じで。
これは、ゆっくりとした想いや時間の流れを表現するのに良い方法だろう。いや、と言うよりは、読者の「時間」を遅くするための手法、ではないか。焦って読み進んでも、この面白さは味わえない。
なんの蘊蓄も哲学もないこのコマすすみに、楽しさを感じうるかどうか。それが余裕(ムダ)修行の2段階目だ。
修行なので後は、繰り返し、進んでいくだけ。繰り返さなければ身に付いた「技」にならない。どんどん次に進まなければ先達を超えられない。時間の余裕と心の余裕(ヒマ)をもって、人としての進化を遂げよう!
さて、3回にわたったマンガの回も終わり、学びの源泉 本の章は一旦これで完結。如何だっただろうか。
次回は「TVに学ぶ」。意外とあるんです、マスメディアから学べること。お楽しみに。
マンガリスト
- MASTERキートン、勝鹿北星・浦沢直樹、小学館
- PLUTO、浦沢直樹・手塚真、小学館(原作 手塚治虫「鉄腕アトム 地上最大のロボット」)
- Magical Super Asia 深く美しきアジア、鄭問、講談社
- 東周英雄伝、鄭問、講談社
- バガボンド、井上雄彦、講談社(原作 吉川英治「宮本武蔵」より)
- 寄生獣、岩明均、講談社
- ヒストリエ、岩明均、講談社
- ヘウレーカ、岩明均、白泉社
- 風の谷のナウシカ、宮崎駿、徳間書店
- 蒼天航路、李學仁・王欣太、講談社
- 陰陽師、岡野玲子・夢枕獏、白泉社
- 風の大地、坂田信弘・かざま鋭二、小学館
- 湾岸ミッドナイト、楠みちはる、講談社
- 熱風の虎、村上もとか、集英社
- 11人いる、萩尾望都、小学館
- 東の地平 西の永遠、萩尾望都、小学館
- 百億の昼と千億の夜、萩尾望都、小学館(原作 光瀬龍「百億の昼と千億の夜」より)
- 風の谷のナウシカ、宮崎駿、徳間書店
- ブルーシティ、星野之宣、MF文庫
- 巨人たちの伝説、星野之宣、MF文庫
- プラネテス、幸村 誠、モーニングKC
- 攻殻機動隊、士郎 正宗、講談社
- ピンポン、松本大洋、小学館
- 吾 ファイブ、松本大洋、小学館
- ぼのぼの、いがらしみきお、竹書房
- よつばと、あずまきよひこ、メディアワークス
- 動物のお医者さん、佐々木 倫子、白泉社
- おたんこナース、佐々木 倫子、小学館
- Heaven?、佐々木 倫子、小学館
- NHK人間大学テキスト「群れる・離れるの動物学、伊澤雅子、日本放送出版協会
- ノラネコの研究、伊澤雅子 文・平出衛 絵、福音館書店
初出:CAREERINQ. 2005/07/29