第3号 歴史が教える「事を成す力」(前編)
宿題の答:コイントスゲームの勝敗
さて前回紹介した「大絶滅」での宿題である。皆さん考えられただろうか。問題はこうだ。
『もし、あなたがカジノでコイントスゲームをやったら、どちらが勝つだろうか? 表裏の確率は完全に50対50。この条件で、果たして親が勝つか、子(あなた)が勝つか。』
答えは『親の勝ち』だ。
そもそもこの問題においての隠れた論点は「最終的な勝ち負けの定義」と「親と子の差」だ。ここでは、負けを「破産」とし、親と子の差を「財力の差」とする。
50/50のコイントスゲームを続けると、負けることの「確率」はどんどん50%に近づくが、そこからの偏差(平均値からの差)はどんどん拡大する。
つまり長くゲームを続けていれば「たまたま1000回連続で裏が出る(負ける)」ことが起こりうると言うことだ。
それが子なら破産してゲーム終了、親なら生き残ってゲームは続く。子にとっては決して勝つことのない、死ぬまで続くゲームとも言える。
生命種にとって「存続する」とは、これと同じ事だ。生命は、地球環境を相手に、将に死ぬまで続くゲームをやっているのだ。種として対応しきれない環境変化が起こったとき、種は絶滅する。
種の生き残りのための戦略はそれ故、「多様性」となる。寒さに強いもの、暑さに強いもの。土に潜れるもの、空を飛べるもの。みな揃って討ち死にしないよう、色々な「生き残り戦略」を試しているのだ。
そこでの鍵は「変化が起こる前から準備する」だ。環境の激変が起こってからでは間に合わない。出来ることはしれている。将来に、備えよう。
将来の不安に備える。これは「ヒト」以外には出来ない、非常に高度な能力だ。本能や進化に任せるのではなく、知性を持って自ら環境変化に備え、環境を変えることさえやってのける。
この能力が今までのところ、環境適応や種の保存でなく、「環境破壊」「種の絶滅」により多く貢献していることは皮肉なことだ。 それでも・・・・それでもいつかは自らの絶滅の日がやってくる。
歴史の本のお話しも、後編へと続くこととしよう。日本古代史の謎、を中心に。
お楽しみに。
歴史小説リスト
- 華栄の丘、宮城谷昌光著、文春文庫
- 孟夏の太陽、同上
- 長城のかげ、同上
- 孟嘗君、宮城谷昌光著、講談社文庫
- 介子推、同上
- 晏子、宮城谷昌光著、新潮文庫
- 竜馬がゆく、司馬遼太郎著、文春文庫
- 花神、同上
- 樅の木は残った、山本周五郎、新潮文庫
- 新十八史略、駒田・常石他著、河出文庫
- 崑崙の玉、井上靖著、文春文庫
初出:CAREERINQ. 2005/03/31