学びの源泉

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第2号 SFが教えるヒトの本質(後編)

科学書からもう一つ。

全球凍結仮説というものをご存じだろうか。最近、NHKの特集番組「地球大進化」でも取り上げられたものだが、地球が22億年前と6億年前の2回、全面的に凍結した(つまり、全てを雪と氷で覆われた、雪(スノー)玉(ボール)になってしまった)というものだ。

「スノーボールアース」にはその学説が意味するところとともに、その学説がどう生まれ、叩かれ、磨かれて来たかの闘争史が詳述されている。

この本の面白さはそこにある。斬新で本質的な仮説が、常識の徹底的な抵抗に遭い、それを乗り越えていく痛快さだ。同時に、如何に強烈な個性とパワーが、常識破壊には必要かが描かれているとも言える。

地球が全面的に長期、凍結してしまったことがある、という説は、それまでの常識ではありえないものだった。理由は簡単。


  1. もし全球凍結が起こると、太陽からの光と熱を殆ど反射し、ますます気温が下がってしまう。すると永遠に雪玉のままのはずだが、今そうではないから、過去そんなことが起こってはいない。
  2. もし全球凍結が起こると、気温がマイナス100度にもなり海面も全て数十メートルの氷で覆われ海中は暗黒となる。生命は(植物プランクトンであっても)そんな中を長期生き残れなない。すると生命は全滅しているはずだが、今そうではないから、過去そんなことが起こったはずがない。


見てのとおり、今思えば「現在の状態」と「常識的論理」に縛られた思い込みだった。


大胆な仮説と詳細な分析は、雪玉からの復活を証明したし(その代わり一旦、灼熱地獄になるが・・・)、生命生き残りのオアシスの存在可能性を示した。

氷河や氷の下でしか生まれない地層が、世界中にある。しかも当時赤道直下であった地域にも。それを徹底的に追究し、当時、その場所で何が起こったのかを純粋に考え抜いたものの勝利だった。今に縛られては、いけない。


入社一年目の冬、新入社員の私はあるプロジェクトで、一部上場企業の大企業役員(つまり60才以上)と「パーティでの歓談」をする羽目になる。その会社では、役員報告会の後に必ず立食パーティが催されたのだ。相手は役員15名。こちらはコンサルタントが数名。枯れ木も山の賑わい、若輩者の私も逃げるわけにはいかない。

「君なんて孫みたいなもんだねえ」と言われ(かわいがられ)ながら、ただ、兎に角話題がない。ゴルフもやらないし、田舎も違うし、困った困った。そこでなんと、読破してきた万巻のSFから得た「ヒトの本質」が私を救った。

ある役員が、そういったSF話を、たいそう面白がってくれたのだ。コミュニケーションの難しさ、進化の冷たさ・覚悟。そう言ったことは大企業という巨大で難解な生き物を扱う経営者達からも、意味のあるインサイトであったのだ。


ふと、中学の時の思考が甦る。「SFって無駄なんだろうな。」そんなことなかったよ、安心しな。


今でも、SFは月に何冊か必ず読んでいる。もちろん楽しみのためだが、私の思考の枠組み(=制約)を拡げるための最大の武器だからでもある。


次号でも学びの源泉として本を取り上げる。題材は「歴史」だ。司馬遼、宮城谷から古代史ミステリーまで。


お楽しみに。

本リスト

SF

  • 2001年宇宙の旅、アーサー・C. クラーク著、ハヤカワ文庫SF
  • バーサーカー三部作(『皆殺し軍団』『赤方偏移の仮面』『星のオルフェ』)フレッド・セイバーヘーゲン 著、ハヤカワSF文庫
  • 戦闘妖精 雪風(改)、神林 長平 著、ハヤカワ文庫JA
  • 百億の昼と千億の夜、光瀬 龍 著、ハヤカワ文庫 JA(萩尾 望都によるマンガ版もある、少年チャンピオン・コミックス)
  • コンタクト、カール・セーガン 著、新潮文庫
  • BRAIN VALLEY、瀬名 秀明 著(パラサイト・イヴの作者)、角川文庫
  • 地球幼年期の終わり、アーサー・C・クラーク 著、創元推理文庫
  • 上弦の月を喰べる獅子、夢枕獏 著、早川文庫JA

科学書

  • 消えたイワシからの暗号、河井 智康 著、三五館
  • 大絶滅 Extinction、D. M. ラウプ、平河出版社
  • 法隆寺を支えた木、西岡常一・小原二郎 著、NHKブックス
  • スノーボールアース、ガブリエル・ウォーカー 著、早川書房
  • 地球大進化 第1巻~第6巻、NHK「地球大進化」プロジェクト 編、NHK出版
  • 美しくなければならない - 現代科学の偉大な方程式、グレアム・ファーメロ 著、紀伊國屋書店

初出:CAREERINQ.COM 2005/03/04

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