第58号 リフォームで育む「考える手足」2
建築士+工務店+家具職人という選択
彼のアドバイスに従って、また2社、施工会社を選び(これまた中堅工務店と一人親方という、全く違うタイプ)、見積もりをお願いする。
両者に現場で各一時間、お会いしてお話しする。採寸等をしながら、2者ともがプロらしく見積もりのための情報を集めていく。
一週間後、建築士から連絡が入る。「2社から見積もりが出ましたから、明日打ち合わせを」
打ち合わせで出てきたのは1枚の見積もり比較表。
そこでは双方の見積もりが、項目ごとにきちんと揃えられ(抜けているところは適当に埋められ)、その額を比較されていた。
すでに2社には連絡を取り、その見積もりの凸凹もある程度、均(なら)されてもいた。もちろん低い方に合わせて。
さらに、重要な作り付け家具については、べつに見積もりを取った家具屋(若い家具職人)に頼むことにし(つまりその部分は2社の見積もりから抜き)、見積もり比較が完成する。
建築士による、たった1日の早業だ。
「額もだいたい同じに揃いました」「だから内容的には差がありません」「どちらにしますか?」
一応聞いてみる。「あなたにとってどちらが働きやすいですか?」
「どちらも大丈夫です。そういうところにしか(見積りを)お願いしてませんから」
了解。では、あとは勘で。
一般論で言えば、工事関係者を増やし、複雑にすることは品質の上でもコストの上でも得策ではない。そういう面ではリフォーム会社に一括で頼むのがよく見えるだろう。
でも、どこに頼もうが実際には工事種類ごとに傘下の会社や職人さんたちが作業を行うことに変わりはない。コスト的には差はないのだ。
かといって一般の個人では「品質と管理のバランス」を取ることは出来ない。つまり良い品質のものだけいいとこ取りをして組み合わせようとしても、管理コスト倒れしてしまう(もしくは管理に失敗する)ということだ。
それをやってくれるのが、建築士。
リフォームにおける建築士の3つの価値
中古マンションの中規模リフォームにおいて、あえて建築士を起用する価値が3つある。
第一はゆえに「複雑さの管理能力」による「いいとこ取り」ということだ。結果として質の高い施工を、低コストで期待できる。
第二はコスト意識の高さ、である。逆に思うかも知れないが、自分で直接管理するからこそ余計な手間を減らす、工事種類を減らすことを気に掛ける。
「洗面所の床はテラコッタとかのタイルにしたいなあ」
「そうすると左官屋さんが新たに入ることになるから最低10万円は掛かりますよ」
「う・・・」
第三はもちろん、提案力の高さだ。私自身、リフォームプランを相当考えてから臨んだが、提示されたコンセプトは大きく期待を上回るものであった。
プランの議論相手として、全く以て申し分ない。そりゃ当然だ。そのプロなのだから。
廊下と部屋のデッドスペースを寄せ集めたPre-Roomは(施主側の要望で)「図書室」となって本好きの子どもの居場所となり、オープンキッチン化は料理好きのお母さんの大きなモチベーションとなった。
竣工まであと数日。
これら選択は、新居を待つ家族みんなの、永き笑顔につながるだろうか。
建築士 田邉 淳司さんのHP: http://www.tanabe-designoffice.com/profile.html
初出:CAREERINQ. 2009/11/16