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第35号 諸先輩の金言集(前編)

能あるものには職を、功あるものには禄を

これまで多くの先輩達に鍛えていただいてきた。職業人(プロフェッショナル)としての今の自分があるのは偏にそれら諸先輩の叱咤激励、鞭撻のお陰である。

私の頭に叩き込まれた「金言」を、いくつか紹介しよう。まずは「能には職を、功には禄を」だ。


これは現在、D生命におられるUさんに教えていただいた。

西郷隆盛の残した言葉である「西郷南洲翁遺訓」の中に「何程国家の勲労ある共、その職に任えぬ人を官職を以て賞するは善からぬことの第一也。官はその人を選びてこれを受け、功あるものには俸禄を以て賞し、これを愛し置くものぞ」という一節がある。

幾らお国に対して功労のあった人間だといっても、その才能や能力もないのに国家の要職に就けるというのは、最もやってはいけないことである、と西郷は明確に言っている。

明治維新最大の功労者の一人でありながら、自ら明治新政府から身を遠ざけ西国にこもったのも、こういった信念からきたものかもしれない。


一般企業においても、お金を稼げるヒトと、人を使えるヒトは別だ。しかし、職と禄が結びついている(管理職にならないと給与が上がらない)こともあり、また、職に名誉が結びついていることもあり、ヒトは職を望み、そして「その任に堪えないもの」が要職を占めるに至り、組織は自壊していく。


Uさんにはよく叱られた。そして社会の厳しさ、組織の厳しさ、ヒトとしての優しさを教えていただいた。

組織における「本社」というものの在り方、厳しさもその一つだ。

「本社とは現場から見れば権力持ったこわくて遠いイヤなところだ」

「それでも本社が現場から信頼して貰うためには、そこにいる人間は現場以上に頑張ることしかない」

「現場が夜も動いているのに本社の人間がそれより早く帰るなんてありえない」

「本社のヤツらは偉そうだけど、ホントに大変そうで、とても自分では務まらない、って現場に思わせるくらいじゃないとダメなんだ」


彼に一番叱られたのは、広島出張でなんと飛行機に乗り遅れたとき。羽田に向かっていたはずの私は、大手町オフィスのドアノブに手を掛けた瞬間、その冷たい感触に凍り付く。

「なぜ私は今ここに!?」

Uさん、すみませんでした!

Aって言いてえのか、Bって言いてえのか、どっちだ

私の採用担当でもあったKさんの言葉だが、これはちょっと、言われた本人でないと分かりにくいかもしれない。

状況はこうだ。

私が一生懸命考えたことを述べる、それを聞いて彼が私に問いかける。

「お前が言いたいことは、○○○が▲▲▲でXXXってことか(A)」

私はうなずく、そうそうそうなんです。

構わず彼は続ける。

「それとも○○○が△△△で□□□ってことか(B)」

私は再びうなずく、そうそうそうなんです。


あれ、でもおかしいぞ。

明らかにAとBは矛盾している。○○○というFact(事実)は同じでも論理や解釈次第で、結論はXXXだか□□□だか全く違うじゃないか。

うーん、困った。すみません、もう一回考えてきます。知的な往復ビンタを喰らった私はすごすご引き下がる。


余りにも何回もそういうビンタを受け続けたので、しまいには彼の声が事前に聞こえるようになってきた。

自分で何かを考え、まとめて文章にする。それを眺めていると彼の声が頭の中に響く。

「これはAって言いてえのか、Bって言いてえのか、どっちだ」

はいはいわかりました、もう少し考えます。

あと3回半なんだなあ

これはまた難解なフレーズだ。

意味は、メッセージ(言いたいこと・言うべきこと)の練り上げのレベルを今から3.5段階上げろと言うことなのだが・・・スパイラル状に上がっていくから、3回半回せ、そしてレベルを上げろ、と。

経済産業省(当時通産省)出身のFさんの言葉だ。

なぜこれが心に響いたのだろう。

当時、あるプロジェクトを私が中心でやっていた。上にいたマネジャーが退職し、替わりに彼がやってきた。彼は中身には一切タッチせず、ただ、報告会の前、1~2日だけを私と過ごした。

多分、私にはちょっとした慢心があったのだろう。マネジャーがいなくとも私はプロジェクトをうまくやれている、と。

そして彼に出した報告書の「たたき台」もそこそこのもの。彼はそれを一発で見抜き、笑いながら言った。

「ん~~~。なんかな~~~。ん~~~」

「もう3回転半!」

「はっはっはっ」

何が何やら一切具体性のない指示(?)だったが、私にはそれで十二分だった。自分の慢心に気がつかされ、到達すべきレベルまでまだまだであることが分かり、そのレベル感も(なぜだか)何となく分かった。

「分かりました。あと2回半くらいは頑張ってみます」

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