第30号 教えず導く(社会人編)
「体系(フレームワーク)」がその答え
上記のふたつとも、答えは「体系」にあった。
数多(あまた)ある、マーケティングの諸戦略、諸ツールの、体系。
差別化戦略、競合戦略、ブルーオーシャン戦略、など数多ある経営戦略の、体系。
マーケティングは3階層(「マーケティング・ピラミッド」)で整理した。
最上位はポートフォリオとポジショニング、中間はターゲット、最下位がツール(4P)。上位が決まって初めて下位が定まる。
経営戦略は3x2の6つの箱(「B3Cフレームワーク」)で整理した。
左右は土俵(BC )・競合(C)・自社(C)、上下は進退と勝ち負け。
初心者には地図を与えることだ。知識をどこに収めるべきかの地図を。全てを一つの体系の中に位置づけることで、個々の位置づけが分かり、格段に理解しやすくなる。
スキルを高めるには、一つの考え方を繰り返すことだ。どんな課題でも共通に用いられる汎用的な考え方を。全てを一つの体系の中に位置づけることで、一つの考え方だけを繰り返し用いることが出来、格段にスキルアップに繋がる。
さて、ここまで来て、やっと次の段階に進める。
どうしたらそれら体系(フレームワーク)を、自ら用い、自分のものとしていくのか。
しかし、そこにも大きな壁がある。
突っ込み方の極意
研修を行うとして、多くの場合、発言者は「間違って」いる。そりゃそうだ。間違えないなら研修なんて受ける必要がない。
一方、講師は多くの場合、「正しい」答えを知っている。これまた当然。でなきゃ、お金なんて取れない。
でも、問題はここから。
間違っているヒトは、正しい答えをただ聞いても、たいていの場合、ちゃんとは理解できないのだ。
間違うには間違うなりの理由がある。
前提を勘違いしているとか、途中のロジックが歪んでいるとか、表現が曖昧すぎるとか。そして、その「思考(誤答)プロセス」のどこがどう間違っているかなんて、もちろん分かっていない。
そこへ、正しい答え「だけ」を聞いても、「自分の答えとは異なる」「なんとなく正しそうだ」と感じるだけだ。
必要なのは正答ではない。正答へと至る正答プロセスでもない。それは、正答プロセスとそのヒト特有の誤答プロセスとの比較なのだ。
だから、発言者を正しく導こうと思えば、発言者の「誤答」から、誤答の原因(プロセス)を探り出し、それと正答を導くプロセスを比較して、そのズレを指摘せねばならない。それによって初めて、そのヒトは正しい答えに至る道への、真の理解を得る。
これが「突っ込みの極意」なのだが、なかなかに難しい。
誤答プロセスは個々人に特有であり、誤答原因はその時々でバラバラだからだ。つまり一般化がしにくく、経験やノウハウが役に立ちにくい。しかも、発言があったその場で指摘しないと、インパクトが薄れるから即答せねばならない。
非定型性と即時性。講師としては極めて面倒なハイスキルを要する部分だ。だからこそ、価値がある、のだが。
そして、教えず導く、の領域へ
「教えず導く」は、行きつきたい最後の目標だ。
教えてしまったら伝えられないモノがある。教えられてしまっては得られないモノがある。
それらを如何にして伝えるのか。
先人たちの実践を糧としながらも、自ら実験・挑戦を続けていこう。
社会人諸氏よ、準備は良いか?時間がないなどと逃げてはいないか?正しい体系と正答プロセスを身に付けるべく、同じことを繰り返す覚悟は出来ているか?
継続は力。なぜなら、非天才においては、継続によってしか力(スキル)は身に付かないからだ。
初出:CAREERINQ. 2007/07/02