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第19号 ビジネス誌・紙は縦・横に読む(縦編)

秘密の情報源

講演などをしていて、質問を受けることがある。「普段、どんな新聞・雑誌を読まれていますか?」


おそらく期待されているのは「Business Weekの英語版を必ず」とか「もちろんFinancial Timesは欠かさず」とかいう答え。もしくは「日本語だと『選択』がエグゼクティブ向けには良いと思います」と言った答えだ。

つまり質問者は「コンサルタントたるもの、きっと何か秘密の情報源を持っているのでは」と考えていて「それはきっと英語や特別な会員誌に違いない」と思い込んでいるのだ。

もちろん、私の同僚でそういったマジメな人、語学に長けた人も多い。でも残念ながら私は、違う。


定期購読しているのは、日経新聞、日経ビジネス、日経コンピュータ、それに会社で日経流通新聞、といったところ。プラス、特集によって週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済を2~3ヶ月に1回だろうか。

誰かのブログを定期的にウォッチするとかもしないし、ましてや英語の雑誌を読むなんて年に一度もない。


日常の情報源として、特別なものは何もない。これらをちゃんと読むだけで精一杯。

それでもそういった「普通のメディア情報」からの学びは非常に大きいと感じる。

時系列式読解術

ある記事を読めば、それは必ずあるトーン、ある基本メッセージの下に書かれている。肯定的、否定的、懐疑的、云々。

それは記事としては当たり前のことだ。しかし読者として、簡単にそれに飲み込まれてはいけない。


そして、雑誌・新聞の記事というのは「一過性である」というもう一つ大きな特徴(限界)を持っている。基本的には、その時1日や1週間のことが中心だ。故に読者としては、ファクト(事実)にせよ、トーンにせよ、極めて限られた一断面を見ていることになる。

これを自分の中で、客観的に(執筆者によって作られたトーンを外し)、時系列で見つめ直すことで、様々なことが見えてくる。


例えば、玩具メーカーであるタカラ(2006年3月1日にトミーと合併し、タカラトミーに)の例を見てみよう。

ここ数年の日経ビジネスでのタカラに関する記事は20以上に上った。その全体を一言で言えば、前社長である佐藤慶太氏の(日経ビジネスから見た)栄枯盛衰物語、となる。

簡単に背景を説明しておこう。彼は父が創業したタカラに入社後、常務、専務となったが1996年、方針の食い違いから退社。別会社を設立し、2年で年商16億円の企業に成長させた。業績が悪化し長男に代わって父が社長に戻っていたタカラに99年復帰。2000年2月からは社長として窮地のタカラを2年でV字回復させた。

ヒットさせた商品は、ベイゴマの「ベイブレード」、犬と話せる「バウリンガル」、家庭用カラオケ「e―kara」、チョロQのラジコン版「デジQ」、家庭用ビアサーバー「レッツビアー」などなど。「拡玩具」ビジョンの下、家電への進出、電気自動車(巨大チョロQであるQカー)など事業領域も拡大し、2003年度には遂に売上1,000億円を達成した。


そしてそれからわずか2年弱、収益は悪化し、2005年3月末に100億円を超える赤字を出したとして引責辞任(会長に)、そして5月にはトミーとの合併(トミーによる救済色が強い)を決断した。

06年6月現在では新会社タカラトミー(英文名はTOMMY)の代表取締役副社長である。

日経ビジネスをただ読むと・・・

さて、日経ビジネスの記事だ。主要なものの見出しを挙げてみよう。

  1. 編集長インタビュー:創業家の意識は捨てた (2001/11/05)
  2. 2001年版ヒット商品ランキング 第1章ヒット商品の法則:エイジレス1 親にも買わせるタカラの「拡玩具戦略」 (2001/12/17)
  3. 戦略-市場拡大-経営タカラ:チョロQが道路を走る理由(2002/03/04)
  4. ひと烈伝-40代が変える-佐藤慶太氏 「次の社長を育てています」(2002/10/07)
  5. もっと働け日本人 新モーレツ主義のススメ第1章-社員が燃える条件1:トップの熱い思いが共感と自信を生む (2003/01/27)
  6. タカラ経営-踊り場迎えた「拡玩具路線」 (2004/06/21)
  7. 「拡玩具路線」でつまずいたタカラ:背水の陣で2度目の“再建”へ (2004/12/06)
  8. 歴史は繰り返された:タカラ、業績悪化で佐藤社長引責辞任(2005/02/07)

1.2.3.は基本的に「拡玩具」戦略の賞賛である。4.5.は経営者である佐藤慶太氏に対する賞賛。

そして1年半後の6.で「拡玩具」戦略の否定に転じ、その半年後の7.8.では「やっぱりね」というところ。

本当に「拡玩具」戦略は間違いだったのだろうか、そして、佐藤慶太氏のリーダーシップに大きな問題があったのだろうか。それはおそらく否だ。


日本の希有なる少子高齢化の中において、大手玩具メーカーが国内の子供向け玩具市場にのみ留まることはありえない。拡玩具は必然である。

また、それ以前にそもそもヒット商品を作る力の強化というのは必須のものであり、彼がそれに成功したのは間違いない。

ただ、肯定的な記事ではこれらの良い面しか出ないし、否定的な記事では悪い面しか出ない。しかしその両方を(頭の中で)見比べてみると、どこまでが良くてどこからがグレーだったのかが分かる。

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