第12号 失敗に学ぶ(前編)
「ちょっとずつやる」はとても大事な作業方法
もう1つ、大きな学びがあった。それは「ちょっとずつやる」ことの大切さだ。
うまく行かなくなると大抵は時間でカバーしようとして睡眠不足と疲労困憊、作業効率低下の負のサイクル(Vicious Cycle)に入る。当時を振り返るとよく分かる。ギリギリまで材料集めに奔走し、前日になって何かまとめようとする。たいしたアイデアもなく、とにかく何か状況説明資料だけ作って深夜2時。寝不足で考えたって効率悪いと知りながら、寝てしまう勇気はない。起きられなかったらどうしよう、起きてからの2時間で出来なかったらどうしよう。それで朝までの5時間を悶々と過ごす。
たまに良いアイデアが出ても、それ止まり。それを議論に足るものに仕上げるためには、もう何段階もの思考が必要だ。でもそんな余裕はない。
答えは何か。3日で仕上げるべき作業があったら、すぐに手を付けて、でもやり終えてしまわないで切りの良いところで止めておいて、他の作業をする。翌日、時間を取って考え抜いて、ほぼ内容を決める。最後は書き下すだけ。時間は掛かっても頭はあんまりいらないから、万一寝不足でも大丈夫。こういう「ちょこちょこ作戦」だ。
これによって「自己突っ込み」が出来、間違いなく質が上がる。一気呵成でやると、今、自分の考えたことを否定することはほぼ不可能だ。自然と独りよがりな偏った浅いロジックになる。でも昨日の自分ならそれほどカワイくはない。昨日自分が作ったロジックは、惜しくはあっても否定できる。
海馬に賭ける!
プラス、必ず睡眠を取ること。最低5時間。6時間以上が理想的だろう。ちゃんと寝ることの効用は生理学的にも大変大きなものだ。
睡眠の脳にとっての効用は大きく2つある。「短期記憶の整理」と「レミネセンス(追憶)による再構成」だ。
脳の記憶機能の中核は「海馬(かいば)」と言われる部位だ。数分間から数日間にわたる短期記憶を司っている。しかし、海馬の働きはそれだけではない。
夢、も作っている。
正確には夢は夜間、海馬が行う情報整理作業の副産物に過ぎない。海馬は日中とりあえずため込んだ膨大な記憶の断片を、一生懸命整理戦闘しているのだ。個々を繋ぎ合わせて前後左右をつけ、うまく繋がらないゴミは捨てていく。その作業工程を横から見ると「夢」になる。
睡眠時間が足りないと、海馬は情報整理がやりきれず、脳の機能は大幅に低下する。
もう1つのレミネセンスは、これと同じ作業の中で生まれる「自動的に整理・再構成された記憶」のことだ。
前日幾ら練習しても弾けなかった箇所が、翌朝、弾けたとか、解けなかった問題に道筋が見えたとか。こういったことは睡眠中、海馬が中心となって勝手に(?)やってくれていることなのだ。煮詰まったとき、運を自らの海馬に任せて、寝てしまうことも悪い賭けではない。疲れもとれ、記憶も整理され、考えも再構成される。
ピンチは避けず、突破を図ろう。但し、問題はアプローチ。正面から行くのが正解とは限らない。かつ、睡眠だけは確保して。
失敗は辛く苦しい。でもそこはまさに学びの宝庫である。
初出:CAREERINQ. 2005/12/26