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第41号 トヨタvs.パワーポイント

2008年5月、トヨタからの突風

マイクロソフトの稼ぎ頭の一つ、『パワーポイント』に逆風が吹いている。中部地方から全国への強烈な風だ。

http://diamond.jp/articles/-/3191


もちろん、パワーポイント(や、アップルのKeynote)なしでもプレゼンテーションは出来るし、その方が効果的なことも多い。


トヨタ自動車の渡辺捷昭社長は、「(コストダウンに対する)社内の意識はまだまだ甘い。昔は1枚の紙に(用件を)起承転結で内容をきちんとまとめたものだが、今は何でもパワーポイント。枚数も多いし、総天然色でカラーコピーも多用して無駄だ」と苦言を呈した、という。

おっしゃるとおりだ。

パワーポイントのプレゼンテーションというのにカラーコピーをしまくるなんて、そもそもおかしい。

何のために紙を配るのか? 意思決定のためになぜ「手元の資料」が必要なのか? 読めないような細かいものをプレゼンしているのか?


プレゼンテーションとは、その場での意思決定を迫るもの。

そのために手元のカラーコピーがなぜ必要なのか。それは大抵、出席者側(=上司たち)が求めるからだ。上司たちは言う。

「紙がなきゃ分からんよ」

元凶は上司自身にあり

もうひとつ、渡辺捷昭社長の発言で正しいこと。

それは、昔は1枚に用件を起承転結でまとめたのに、という部分。

「一枚にまとめる」は、トヨタ自動車の偉大な文化だった。どんな大事な案件でも、B4横一枚にまとめる。案件の定義から始まり、環境要因等々が整然と並び、投資や体制と言った結論に繋がる。

そこに落とし込むために徹底的に議論し、論理をシンプルにし、情報を絞り込む。

その過程にこそ価値があったのかもしれない。


その文化を壊したのも、上司自身だ。

起承転結まとめているのに、結しか見ない。結論だけ先読みして、直感的に判断する。結論が気に入らなければ、それから遡って批評する。

「これ検討が足りないなあ」


だから紙芝居(パワーポイント)にしたいのだ。

ワンスライド、ワンメッセージで、一歩一歩確認しながら、起承転結を進めていって、その上で意思決定を迫りたいのだ。

数百時間かけて検討してきたことを、上司に、直感(と言う名のスキキライ)で判断されちゃあ、堪らない。これまでの常識を覆そうという提案の時に、経験(と言う名の脊髄反射)から判断されちゃあ、情けない。

パワーポイントでのカラーコピー増大なんてのは論外として、起承転結をハッキリさせるための「B4一枚復活」、というのなら賛成だ。

但し、これは部下たちの挑戦ではない。上司たちの挑戦だ。

直感や経験「だけ」で判断するのでなく、B4一枚に絞り込まれた情報を受け止めて、その裏にある重さを認識して、的確な判断が出来るのか。

「もっとデータを示せ」とか「なんか変だなぁ」とかだけ言うのでなく、「XXとYYのデータが不可欠だ」「とりきれないならZZで代用できるんじゃないか」という指示が、上司たちに出来るのか。

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