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第25号 超長編小説としてのTVゲーム(後編)

戦略とは戦わずして勝つこと

ゲーム中、支配地が拡がれば拡がるほど、プレーヤーは難しい判断を迫られる。それは「優秀な人材をどこに配するか」「民に優しくするか厳しくするか」などだ。特に前者は厳しい。

内政に長けた武将をおかないと、その地の領民の不満は高まり、一揆が起こりかねない。その損害足るや甚大だ。

領地では同時に、治水、商業振興、武器の開発などの投資活動も行っていかなくてはならない。そして年貢を課し、兵を雇い、武将による訓練・教育を施し、武器を買い、最前線の戦場へと徐々に移動させていく。これこそロジスティクス(兵站)の極み。兵の訓練には、戦闘能力の高い武将が必要だったりもする。

年貢で集めた米には相場があり、その売り買いで大きく儲けることも可能だ。


これら全て、お金という資源、人材という資源、更には時間をどう配分するか、どう見切るかの決断を必要とする。

短期決戦に向けて一時的な「圧政」もありうるだろう。投資を抑制し年貢の大幅アップだ。但し、直後にちゃんとフォローしないと川の氾濫だ一揆だ謀反だと、領内はメチャクチャになる。

時間と投資を掛けて兵器を自力で開発する方針もありえるし、即効性を狙って外部からの調達に頼る(但し割高)のもアリだ。


自らの内政方針、戦闘方針を決め、全ての領地を治め、十分な戦闘資源を前線に送り続ける兵站を築けるか。これが勝敗を6割方、決める。

作戦とは勝機を作ること、戦術とはそれを逃がさないこと

さていよいよ個別の戦いだ。

ある領地に攻め入る形を取るわけだが、もちろん事前に密偵を放って状況を探り、「調略」を仕掛けて敵将を寝返らせる(逆もあるが・・・)。

個別戦は通常、敵が城にこもっての「攻城戦」となる。相手にとっては守りやすい籠城戦だ。ムリに攻めれば兵が損耗し、長引けば兵糧が尽きる。これをどうにかするには様々な策が要る。

例えば部隊を二つに分けての陽動作戦。本隊で敵本隊をおびき出し、歩兵の決死隊が堀を渡り(騎兵は当然渡れない)裏側から攻める。

もしくは少数精鋭の騎馬部隊(養成にお金が掛かるので少数にならざるを得ない)が、素早く移動しながらのヒットアンダウェイ攻撃も有効だ。


しかしそういった作戦ではどうしようもない戦力差があったらどうするか。戦略的には「負け」の状態だが、それでも策はある。

ひとつは上手く相手を挑発し、籠城でなく「野戦」を選ばせることだ。野戦だからといって戦力差が縮まるではないが、相手が掛かってくる分スキも出来るし逆転しやすい。

更には大将同士の「一騎打ち」に持ち込む手もある。こうなると全体戦力差でなく、個別の能力差なので、更に工夫の余地が出てくる。

もちろん姉小路で信長に一騎打ちを仕掛けて簡単に勝てるわけではないが、信長に柴田勝家、滝川一益、羽柴秀吉、丹羽長秀、佐々長政などがくっついている状態よりは、遙かにましだ。


そして最後の考えどころが天候である。ずばり「雨」を待つ。

信長は「梅雨将軍」の別名を持つ。それほど雨に縁の深い武将だ。彼の乾坤一擲の大勝負であった、桶狭間の戦いもそう。

小さな城や砦を落として浮かれる2万の今川勢に対し、彼はひたすら雨を待ち、その音に紛れて本陣を急襲した。今川義元を討ち取った軍勢は、その数僅かに2000。戦史に残る大逆転劇だ。


ゲームの中でも雨は視界を遮り、足を遅めさせる。索敵範囲は限られ、敵味方どこにいるか分からない。

だからこそ裏をかくことが出来る。

キレイな状況でキレイに戦えば、小さい方は負けるしかない。カオスに持ち込み、カオスを制御するところに勝機はある。

バランスか集中か、万能か異能か

戦う部隊の編成や、武将の育て方はどうだろうか。これも様々なやりかたがあるだろう。チームメンバーを万遍なく強くするのか、一部だけを特に強くするのか。何でも出来る万能型に育てるのか、ある能力・スキルだけを凄く伸ばすのか。

このチーム内バランス、スキルバランスにおいて、大逆転を狙うなら、やはり集中特化型だ。大きな偏りやアンバランスの中にしか、常識を超えた勝ちはない。

例えば長距離攻撃の出来る部隊(弓使いや弩兵)に経験値を集め、防御力も極端に高めた上で前線に突出させる。当然、敵の攻撃はここに集中するが、残りのものは後方からこの部隊への補給や支援に努め、下手に前に出ない。後はじわじわ長距離攻撃で敵兵力を削っていく作戦だ。

もしくは極端にスピードを高めた者を育てることで攻撃回数や敵攻撃の回避率を上げるのも面白い。

両刀使いの忍者を育てて、かつスピードを上げることで1ターンに2回(故に4回斬りつける)の攻撃をさせる。これが上手く当たれば武器を4倍強くすることに匹敵する。しかも、敵の大ダメージ攻撃をそのスピードで回避できれば、無傷のまま敵に8太刀以上を浴びせることが出来る。

その代わり、防御力は低いので敵の攻撃を回避しきれなければ、即死。リセットボタンのお世話になることになる。


「戦略」に奇抜さは要らない。勝てる戦場を作るべく基本に忠実に、抜け目なく。ただ時には思い切った傾斜配分を。

「作戦」は周到に考え、でも万一戦況不利なら煙幕を張ってでもカオスに持ち込むべし。

そして、「戦術」は勝ち戦なら力攻め。戦力差あれば戦術に異能と奇策を。極端なアンバランスの中にこそ活路はある。

大逆転を狙うとき、ヒトはカオスの縁(ふち)を彷徨う余裕と覚悟を試される。

初出:CAREERINQ. 2007/02/01

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