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第18号 家造りに学ぶ(後編)

「施主に負けるな」

こうなってくると時間に追いまくられている企業側(営業担当者など)の方が不利になる。

興味関心の高いことに対し、顧客は惜しみなく時間を掛ける。それこそアマチュアのアマチュアたる所以だ。ネットを検索し、企業・個人のHPを訪れ、質問をし、いくつものシミュレーションを創り上げる。

その間、案件を10も抱えたプロの営業担当者が出来ることは型どおりの検討であり、自分や同僚の経験の中からだけのアイデアに留まる。


「施主に負けるな」は、建築専門誌である『建築知識』2002年11月号での巻頭特集名である。そこでは企業側、とくに住宅設備を扱う読者(プロ)に対して、こう問いかけられている。

「インターネットや雑誌から得られる膨大な情報により施主の設備への要望がますます高まっています。そしてますます「設備通」な施主が増殖中です。打合せをしたら施主のほうがよく知っていた、という苦い経験をした読者も少なくないのではないでしょうか? 設備は毎年、進化し、変化し続けています。そんな住宅に採用する設備のすべてについてその都度、最新情報を把握するのは困難です」


既にプロは顧客(施主)に負けつつあるのだ。


これに対し、企業はどう対応すべきなのだろうか。

基本的には負けない仕組みを作り上げるしかない。それが出来なければ貴重な営業部隊、企画部隊が不良資産となるだけだ。

個人が使うより高性能のシミュレーターを使い、社内ノウハウ共有のツールを駆使し、インターネット上の顧客の声を拾って解析し我がモノとする。

これらは今どきの施主に負けないための、最低限の武装だろう。

コストを下げるには時間と知恵が必要

家造りの際に、最初の見積もりが予算内などということは殆どない。例え予算限度額を伝えていてもだ。

その場合、コストを下げるための手法には大きく3つある。

1. 設計の簡素化・縮小、2. 部材・設備の簡素化・低グレード化、3. 価格交渉、だ。

ただ、この何れもただ行えば、夢がしぼみ満足度が落ちる。つまらない、ただの四角い家が出来ていく。


それを避けられるかどうかは、ただただ施主の時間と知恵に掛かっている。

例えば価格交渉。設計や設備を変えれば、見積もりも変わる。でも総額幾ら、でなく、前回の見積書と何がどう変わったかを克明に追いかけていく努力を怠ってはいけない。

営業さんは意外といい加減である。

オール電化にしたはずなのにガス管の敷設工事費がそのまま残っていたり、3mでいい配管材料が10m分計上されていたり。悪気はなくとも、営業さんは実にあっさりこういったミスを見落とす。

価格交渉の前提は見積書にある。それを理解せずして交渉はありえない。そしてそこに真剣になるのは支払者である施主本人だけである。

誰も頼れない、誰も助けてはくれない。


相見積もりを取ること、ももちろん重要な要素だ。相見積もりをとらないまでも、ネット上で個別の設備や部材の価格は大体分かる。それはいわゆるメーカー希望価格とはかけ離れた、業者間価格だ。この情報が交渉のカギになる。

また、知恵を絞ることで劇的にコストが下がることもある。子供部屋の壁一面をホワイトボードにするという要望に対して、最初に出た見積もりは40万円。既成のホワイトボード完成品を、一面に敷き詰めるという仕様にしたためだ。

それに対し、私はネットで調べることで「白い板を張り」「その上にホワイトボード用フィルムをクロスのように貼る」という施工方法を住宅メーカーに提案した。これをベースに再見積が行われ、コストは10万円にまで下がった。


更にコストダウンを図るのであれば、施主工事や施主支給をどれだけ頑張るかだ。文字通り、プロに頼まず自分で作業をやる、もしくは自分で調達することだ。

設備の場合には、ネット等で大幅に安く買える場合がある。私は結局、エアコン、IHクッキングヒーター、ウッドデッキを施主支給もしくは施主工事とした。住宅メーカーや工務店の見積額とネット価格との間に20%以上の差があり、かつ、金額が大きかったからだ。

他にも浴槽やキッチンセットなどの水回りを施主支給とする例は多い。しかし、そこに落とし穴もある。


施主支給・工事の手間は膨大

「現場」は施主支給・工事を嫌がる。自分たちの儲けにならない云々もあるが、第一には、現場が混乱するからだ。品質上の問題が出たときの責任問題もある。

住宅建設の現場は、受渡日を控えた終盤1ヶ月、修羅場となる。大工さんが大体の形を造り上げると同時に、電気配線、浴室、床暖房、キッチンセット、空調、とあらゆる設備屋さんが押し寄せる。他にも天井張り職人、クロス張り職人、タイルを貼れば左官屋さん。

こういった阿鼻叫喚(あびきょうかん)の修羅場の中で、現場監督や大工さんの役割は大きい。いつどの職人が入るべきか、それに合わせて資材を手配し、必要な作業場所や足場を確保しなくてはならない。

例えばエアコンを施主支給しても、建物外部の足場が取り払われていたら結構悲劇だ。また、壁に穴を開け、ゴミやホコリが出るというのにその前に仕上げのクリーニングが入っていたら相当の二度手間になる。

逆に言えば、よい施主支給・施主工事をしようと思ったら、こう言ったことを現場監督や大工さんと綿密に事前打合せをし、状況を逐次確認し、現場での作業を自らチェックする、ことが必須となる。それだけの時間と手間を掛けられることが、コストダウンの大前提だと言うことだ。


やる価値はきっとある。勉強にもなる。特に物事、如何に段取りが大事か、よく分かる。後は施主であるあなたの決断次第!


さて、以上2回、最近経験した3軒?の家造りから学んだことの一部を述べた。インターネットの衝撃や価値、複雑な問題における解決策の創造性や段取りの重要性などを実感した。人生最大の買い物だけに学びも深く広い。


同時に、こういったことを処理していくのにコンサルタントして磨いてきた基本的スキルが非常に役立ったことも事実だ。情報収集、ヒアリング、数字分析、問題整理・討議、意思決定、等々。


みなさんの日々精進、家造りにもきっと役に立ちます。頑張りましょう!

初出:CAREERINQ. 2006/06/29

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